411話 粋

 しまった……。ついとんでもない言い方を!


 俺はゆっくり頭を上げ、皆の様子を窺う……。

 心配を他所に、村人達からは「もちろんだ!」「カナデ様になら、この命預けれる!」っと声が上がり始めた。


 良かった……。何とか、納得してくれたみたいだ。


 しかし、右手を握る彼女はどうやらまだ若干御機嫌斜めらしい。


「なんで皆さん、こんなカナデさんを信じられるんですかね~? 不思議でならないです」


 っと、そんな事を言いながらも、握った手を離そうとはしないハーモニー。


 てっきり話を合わせてくれていたと思っていたが……。それに何となく、頬が膨れてるような?


「ハーモニーさっきからやたら突っかかって来るけど、もしかして何か怒ってるのか?」


 図星だったのだろう。少しだけ、ピクリと握られた手に力が入った。


「カナデ様がボロボロになって帰って来ましたからね。人一倍心配していたハーモニー様は少し素直になれていないだけでしょう」


「──ちょっと、ティアさん! 余計な事言わないでください!」


 なるほど。それなのにまた、俺が魔王の元へ向かおうとしている。彼女が怒らない訳はないよな?


「ありがとう。でも、今回は止めないでくれよ? 相手は想像以上の脅威だ。他っておいたら、犠牲が増えるだけだしな」


「分かってますよ~……ワガママ言ってる場合じゃないって事ぐらい」


 分かっていても、心は納得できない。

 心って、本当に難しいものだよな?


「カナデ君ごめんなさい。結局貴方に、全部背負わせてしまって……」


 今度は、落ち込んだ顔のトゥナか?

 まったく、怒ったり、哀しんだり、楽しんだり、喜んだり、皆忙しいもんだ。

 

 人類個人個人が持つ、複雑で不可解な物。

 十人十色で、摘み取れば簡単に消えてしまう命の光。


 だからこそそれは粋で、守るに値する!


「気にするなよ、今回は背負いたくて背負った訳だしな。それに全部なんて大それたものじゃないさ。俺は結局、自分が笑える未来が欲しくて頑張るだけだから」


 いつもの様に、照れをごまかしてみせる。


「そう、カナデ君らしい優しい答えね」


 トゥナは口元を手で隠し、クスリと笑って見せる。

 そして周りを見渡すと、いつしか皆も俺を見つめ微笑んでいた。


 あぁ……この笑顔を守るためにも、何としてでも鎮を


 それにはじいちゃんが成し遂げれなかった、本当の意味で魔王を倒す……っを実行しないと行けない訳だが。


「さて問題は、どうやってあの魔石を破壊できる武器を調達するか……なんだけど」


 知らないだけで、この世界になら壊す手段が存在するかもしれないな。

 でも急がなければ、本格的に戦争が始まってしまう。

 今から探し回って間に合うものなのだろうか……?


「──何を言っておる。そんな事、悩むまでもないじゃろ?」


 この声、村人じゃない。

 前に何処かで聞いた覚えが……。

 

 隊列を組んでいる兵隊たちの影から、小さな人影が姿を現した。


「あ、あなたは!」

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