410話 俺の決意

 駄目だ……このままでは、皆は本当に行ってしまう!

 

 魔王の力は、身をもって知っている。例え大勢で束になったところで、あの人には到底勝てるとは思えない。 


「三人とも、まだ話は……」


 彼女達に向かい手を伸ばす。


 止めなければ、何としてでも!


 しかしハーモニー、ティア共に勝手口を後にした。そして最後のトゥナも「さようなら」っと、一言残して去っていく……。


「そんなの……行かせるわけ無いだろ!」


 このままビビって、布団の中でヌクヌクしててみろ。

 今まで培ってきたものが、跡形もなくすべて失われてしまう。


 俺は痛むのを覚悟で、布団をめくり起き上がる。


「良かった、動けそうだ!」


 ポーションでも飲まされていたのだろう、痛みなどはほぼない。

 足りないのは、勇気と覚悟だけ!


 震える足で追うように、俺は家の外へと飛び出した。


「──皆、待ってくれ!」


 家の外に出ると、シバ君を先頭に村人の大半が列を成している。

 皆目つきは鋭く、士気の高さがうかがえた。


「例えカナデさんの命令でも、今回ばかりはお聞きすることはできませんよ? 僕達の意思は鋼より堅いですから!」


「落ち着いてくれシバ君、皆も俺の話を聞いてくれ!」


 何とか説得しないと、このままでは無駄死にになるだけだ。

 

 俺は身振り手振りで、必死に訴えかけた。


「相手は魔物の大軍を引き連れた魔王、この村人がどれだけ束になってもたどり着けはしないんだよ!」


「そんなことは百も承知です。その程度の理由で、僕達は止まる気などありません!」


 冷静さを欠いている? いや、意思が固いだけか……。


「例え辿り着いたとしても、今ある武器じゃ魔王を本当の意味では殺せない……。だから無駄死にしにいくようなもんで……!」


「そんなことは関係ありません!」


「──皆が俺を思ってこんな事になってるんだ、関係あるに決まってるだろ!!」


 命を軽んじる発言をしたシバ君に、頭が来てつい怒鳴ってしまった。

 俺のそんな様子に、皆が委縮する。


「「「…………」」」


 怒られた子犬のように、耳をペタンと寝かせ、皆が口を紡ぐ。


「気持ちは嬉しい。でも命は一つだけしか無いんだぞ? 例え魔王を倒しても、誰か一人でも犠牲になったら、それで笑えるはずないだろ? ミコだけじゃない、皆も俺の家族なんだから」


 誰一人欠けることなく、皆が揃わなければ笑えない……だから──。


「だから……俺が行く!!」


「俺が……ですか? 俺もじゃなくて?」


 口を閉ざしていた村人たちから「魔物の軍勢相手に、いくらカナデ様でも」などのざわめく声が聞こえた。


「皆も事情は聞いてるはずだ。大丈夫、魔王との約束もあるからな。俺一人なら、まず間違いなく辿り着ける。どうだ、軍勢相手に戦うより、可能性が高そうだろ?」


 俺を殺すチャンスがあっても見逃した。

 鎮も返事を聞くまでは、俺を殺したく無いのは明白だ。


「勇者……なんて格好いいもんじゃないけどさ? 皆で幸せになれるなら、魔王が油断してる所をブスッ! っと不意打ちでもしてくるよ」


 暗い雰囲気を明るくするためおどけて見せる。しかし、誰一人として笑顔は見せない。


 ス……スベった?


 その様子に俺が困っていると、温かい小さな何かに右手を握られた。


「なんですかそれ、やり口が格好悪いですよ~? ちょっと卑怯すぎやしませんか?」


「ちょっと、ハーモニー!? 卑怯は言い過ぎだろ!」


 さっきまでの、ピリピリとした雰囲気ではない。一部の村人の顔が、少し綻び始める。


「まぁ良いよ、前から格好いい試しなんてほとんどないんだから。少しぐらいズルくて格好悪くても、皆で笑える方が何百倍もましだしな」


 次々と笑顔が感染していく。

 そして止めと言わんばかりに、ティアが現れた。


「カナデ様の事です。そう言われるとは思ってました」


「え、不意打ちするって事か? ティア……俺の事をそんな卑怯なやつだって思ってたんだな?」


 声を出して笑う人も現れるほどには、場の緊張感が解れたようだ。


 しかしそんな中、一人の少女は笑顔を浮かべてはいなかった……。


「なんだ、トゥナはそのやり方に文句があるのか? この際、手段は選んでられないだろ?」


「カナデ君……本当にいいの?」


 トゥナは手を胸の前で組み、問いかけた。

 懺悔を聞く、シスターの様に……。


 彼女の言おうとしてる意味は、実の父と真剣に殺し会う。その事を言っているのだろう。


「良いも何も、家族を守るのは家主の仕事だ。ほら、俺は村長だし似たようなものだろ?」


 真剣に彼女を見つめ、それに気付いた上で知らないふりを決め込んだ。


 それを感じ取ったのだろう「そう、そうなのね……」っと周りに合わせるよう、辛そうな表情で微笑みかけてきた。


 覚悟は決まった。

 このプラン、決して勝算は高いものじゃないだろう。


「……だからさ」


 俺に出来ることは目一杯いやるつもりだ。

 でも、もしもの時は──。


「だから、もし負ける様な事があったら……。その時は俺と一緒に死んでくれ!!」


 っと、大切な家族に向け頭を下げたのだった。



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