409話 皆の決意

「それってつまり……ミコちゃんを諦めるって事?」


「…………」


 俺はつい、黙り混んでしまった。

 図星をつかれて、返事をする事が出来なかったのだ。


「そう……。そうなのね?」


 この時、批難の言葉を浴びると思った。

 いっそのこと、俺はそれを望んでいたのかもしれない。


「情けないよな……。責めてくれても良いんだぞ?」


 そうする事で、連れていかれたミコが許してくれる訳でも無いのだが……。

 しかしそこに居合わせた人は、誰一人として俺を責める言葉を発しないのだ。


「あのね、カナデ君が意識を失った後、魔王が私に声を掛けてきたの。その時に話は全部聞かせてもらって、交渉の内容は皆知ってるわ。自分達が枷になっていることも……」


 そうか、だから誰も俺を批難してくれないのか……。


 胸元で涙を流していたハーモニーが顔をあげ、涙を拭う。そして──。


「皆で決めました~……。今度はカナデさんがココで待っていて下さい!」


 っと、口にしたのだ。


「……はっ⁉ 何を言って‼」


 一瞬、意味を理解出来なかった。

 しかしよく見ると、皆が以前に俺が打った刀を手にしていた。


「なぁ、冗談だよな? 相手は魔王だぞ? そんなのに喧嘩を吹っ掛けるなんてどうかしてるだろ……」 


「冗談なんかじゃありませんよ? 私達はいたって本気です」


 様子を見ていた村人達は立ち上がり、次々と去って行く。

 俺はそれを止める様に「何でだよ──行かないでくれ!」っと必死で声を上げた。

 しかしそれでも、誰も足を止めようとはしない。


 いつしか建物には、俺とトゥナ、ハーモニーとティアの四人だけが残された。

 三人は布団の上に座っている俺を、取り囲むように近寄る──。


「なぁ何でだよ? 今からでも遅くない、考え直してくれよ?」


 そうでなければ、傍には誰もいなくなってしまう。

 何もかも、意味がなくなってしまうんだよ……。


「なんでって、カナデ君が! ……カナデ君が、凄く悲しそうな顔をしているからよ……」


「悲し……そう?」


 勝てるとか勝てないとか、そんな理屈では無かった。

 皆、俺が悲しそうだから命を投げ打ってでも、魔王に挑みに行くって言うのか?

 そんなの、不可解だ……。


「皆、カナデさんの事が大好きなんですよ~。だからそんな顔をさせたまま、自分達だけのうのうと生きていくなんて、絶対に耐えられません!」


「良いんだ! そんなの気にしなくても良いから……」


「カナデ様、これっぽっちも良くありません。私達は皆、とても怒っているんですよ? 例え相手が誰であろうと、大切なカナデ様の笑顔を曇らせる元凶は許しておけないのです」


 彼女達の気持ちは痛いほど嬉しい。嬉しいはずなのに……。


「だからカナデ君、貴方がこんな事望んだりしないのは知ってるわ。でも私達は譲らない、譲れないのよ!」


「そんなの、矛盾してるだろ……」


 皆の意思が固い……固すぎる。


 これ以上止めても無駄だと、何となく感じてしまった。


「大丈夫よ。私達、こう見えて凄く強いのよ? けちょんけちょんにしてくるから! また、ミコちゃんと会わせてあげるね」


 トゥナが目の前で、力瘤ちからこぶを作って俺に笑いかけ、その後前のめりに俺の唇を奪った。


「推しと推しのキス……良いものですね。また拝ませて頂くためにも、無事に帰ってこないといけないですね」


 その後、どさくさ紛れにティアも唇を奪ってくる。

 そして少し離れ、自分の唇を軽く舐め、妖艶な笑みを浮かべた。


「──って私が最後ですか~!? まぁいいです。魔王を一捻りしたら、一番最初に愛してもらいますので、これは強制ですからね~!」


 三人目のキス。

 こんな時なのに、少しだけ舌をいれられドギマギした。

 どちらかわからない流れる涙で、少ししょっぱい味だ。

 

 そして、三人はゆっくりと離れていく……。


 「「「行ってきます」」」」


 っと、ただ別れの言葉を残して……。

 

 

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