408話 帰還と、諦め

 悪い夢を見ていたのだと思う。


 それも、飛びっきり悪い夢だ……。


 感動の再会になるはずのトゥナと、偶然出会った父との再会。

 それなのにまさか、世界の命運を背負った命の奪い合いをする事になるなんて……。

 

「カナ…………。カナデさん~!?」


 誰かが呼んでいる。

 こんな悪い夢から、早く目を覚まさねば──。


「夢で……良かった……」


 目を開け、見上げた天井は日本家屋のそれだった。

 つまり俺は、地球か異世界かは知らないが我が家に居るって事……それが先程までの事が、夢である証拠……。

 

「──カナデさん~!」


 声と共に、起き上がった俺に誰かがしがみついてきた。


 冷たい?


 下を見ると、俺の服を濡らしている犯人はハーモニーだ。

 そして俺は、周りを見渡す……。

 

 トゥナにティア、それに皆も?


「ここ……は? いったい」


「カナデ様──起きられたのですね!!」


 ティアが、心配そうな面持ちで俺の手を掴む。

 

 この温もり、夢じゃない。


「体の調子はどう? カナデ君」


「あ、あぁ……。あちこち痛むけど、動かせそうだ。それより、どうして俺達がここに?」


 夢でないのなら、俺はグローリア大陸に居たはず。

 それも鎮に敗れ、動く事の出来ない満身創痍の体で……。


「カナデ君のおと……。魔王が魔物を引き連れて戻っていったのよ。その後すぐに、大きな龍が来て──」


「そうか……ククルカンが迎えにこれたのか。それに鎮は約束を守って」


 大方、鎮が撤退し離れた事でククルカンも動けたのだろう。

 何はともあれ、無事でよかった。


「良かったです~……生きててくれて、本当に良かった」

 

 泣いているハーモニーを慰める様に、頭を撫でてやる。

 

 所で俺は、何かを忘れているような……。


 ──無い! 無銘が無い‼


 慌てて腰に触れ無い事を確認し、周囲を見渡たした。


「ミコは……? 無銘はどこなんだ?」


「「「…………」」」


 なんで、なんでみんな黙り込むんだよ……? 


「カナデ君、ごめんなさい。結局私、何も出来なかった……」


「いや……トゥナが無事でいてくれただけで──っ……!」


「カナデ君!?」


 俺は「大丈夫だから」と手を上げる。


 右目に違和感? 布模様な物が巻かれているみたいだ。


「右目が見えない? そうだった、目も……」


 ショックだった……。

 儲けた命とは言え、ミコや無銘、自分の右目も失ったのだから。


「申し訳ありませんカナデ様。ポーションでは骨折などは治せても、失われた血や欠損部位は治せないのです……」


「あぁ、知ってる。別にティアが謝ることなんて無いさ」


 そう。悪いのは全部、弱い俺なのだから……。

 

「生活に不便は無さそうだけど、少しばかり遠近感が分かりにくいか……。槌を振るにも、慣れが必要そうだな」


 離した手を見つめ、ポツリと呟いた。

 少しでも冗談めいた事でも言わないと、今にも泣いてしまいそうだったのだ。


「カナデ様。こんなときに申し上げるのは酷ですが、ギルドからの情報によりますと、各国は魔王討伐のための準備を済ませたようです」


「そうか、本格的な戦争になるのか……」


 全人類対、魔物を引き連れた魔王の戦争だ。

 多くの命を奪い、奪われる無用な争い。

 

 最強の魔王と、恐怖を知らない魔物を相手に、人類は生き残ることは出来るだろうか? 難しいだろうな。


「……でも、それも関係ないか」


 鎮と手を組めば、ここに居る皆は助かる。

 俺にしては上出来だろ? 当初の目的を達成できて、両手いっぱいの人類を助ける事が出来るんだから。


「──ねぇカナデ君……。ミコちゃんの事、どうするの?」


 頼み込めば、鎮は無銘を返してくれるだろうか? いや、自分ならそうはしない……。奴にとっても、あの刀だけは脅威なはず。


 知り得る中では、無銘が無い以上レーヴァテインが一番攻撃力が高い。それでも全盛期の聖剣と並ぶほどの攻撃力しかない。


 つまり、レーヴァテインじゃ魔王の核は壊せない……。

 

「どうするって……? 魔王の強さは圧倒的だ、それに無銘を持っている……どうすることも出来ないだろ?」


 情けなくも、この時俺の口からはそんな弱音しか出てこなかったのだった。

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