407話 敗北2

 予想だにしなかった。

 鎮は視線を落とし、俺の顔を覗き込む……。


 正直、驚いた。


 自分の意思とは無関係とは言え、先程まで刃を交えていた相手に、まさかこのタイミングで本当の父親らしく話しかけられたのだから。


 わざわざ教える必要もない。でも、もしかしたら無銘から何とか気がそらせるかもしれない。


「……俺が作った村がある。そこでは人種の差別も無く、互いが互いを尊重して思い合っている。良い奴等ばかりなんだ! あんたが嫌いな自分勝手な人類ばかりじゃないんだよ‼」


「…………へぇー」


 あの鎮が、いたってまじめな表情へと変わる。

 顎に手を当て何かを考え込む様子を見せた……。


「そうかそうか。差別も無く、互いを尊重ねぇ~」


 そしておもむろにほくそ笑み、その表情に俺はおびえた──。


「カナデ、こう見えて俺は寛大だ。お前の玩具を壊したりしねぇよ。その村と、そこに居る者だけは殺すのを止めてやろう。だからな、俺の元へ来い」


「……な!?」


 まさかの提案に、一瞬耳を疑った。

 今、シュピーレンだけを見逃すって言ったよな……?


「こっちに走って来てるあの女も、守りたい人の一人なんだろ? 俺が怖いだろうに。それでもお前を助けに、中々に良い女じゃねぇか」


「……」


 鎮の提案。それはつまり、当初の目的は達成できる……?

 トゥナやハーモニー、ティア達も無事で、村の皆も無事。万々歳じゃないか。


 でもそれは──他の人類の存亡を代償に……。


「半年間。魔物を引き、それまでは大人しくしておいてやるよ、サービスが良いだろ? まぁ、売られた喧嘩は買うけどな。はっはっは、楽しみを取っておくのも悪くない。そうだ、それと……」


 やめろ……やめろ、やめろ!

 

 最悪の事態だ。

 地面に落ちている無銘を、鎮は手に取る──。


「これは頂いておく」


 魔王が最強の武器に手にした……。人類最大の危機の瞬間だった。


「だ、駄目だ……それに触れるな」


「糞ジジイが打った刀だろ? 息子の俺が貰うのは当然の事だ。これは素人目に見ても分かる……これはヤベェ代物だ」


 どんな理由があろうと、あれは……あれだけは渡せない! 


 俺は何としても止める為、武器を探した。


 無銘があったから、自分が打った刀は鍛冶屋に置いてある。

 俺はマジックバックの中から、唯一武器になりそうな一本を手に取った。


 そしてそのまま、体を引きずる──。


「待て、そいつを離せ……!」


「またねぇよ。こいつは脅威だ、これが手元にあれば何にだろうと負ける気がしねぇ」


 例えどれだけ体が痛かろうと、前へ、前へと進む。

 

 きっとミコはあの中で怯えている……助けなきゃ、助けなきゃ!


「返せ、無銘を……返せ!」


「何度も言わせるな! それにこいつが無ければ、お前も下手な気も起こさないだろ。大人しくしてろ‼」


「──がっ!?」


 鎮の蹴りが腹部にささり、俺は飛ばされる。

 飛ばされた俺は、グシャっと鈍い音を立て地面に突っ伏した。


「カ…………カナデく……!」


 トゥナの声がする……?


 彼女に抱きかかえら、俺は口に何かを咥えさせられる。

 もう力も入らなければ、何処も動かない……。


 手を持ち上げ、求める事すらも叶わなかった──。


「……ミ……コ」


 視界が狭まって行く。

 結局俺は、そのまま声すらろくに出せず、意識を失ってしまったのだった……。


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