406話 敗北

「あーヤバかったヤバかった。今回ばかりは、マジで終わりかと思ったぜ」


 鎮は自分に刺さりっぱなしの刃を、腕から引き抜いた。

 そして無銘は、音を立て地面へと落ちる……。


 俺は、必死に動く方の手を伸ばそうとするものの、それには決して届くことはなかった。


「その刀と神在突き、もしかして俺を確実に殺すために……? ペッ! ジジイの奴、とんでもねぇ物をこしらえやがって」

 

 自分の血が滴る刀身を睨み付け、地面に唾を吐き捨てる鎮。


 このままではまずい、動け……。頼むから動けよ、俺の体!


「ぐぐっ、うぅ……!」

 

 全身全霊の力を込めるものの、体は思うように動く事も叶わなければ、立つ事さえ叶わない。

 それでも俺は、動く部分だけでボロボロの体を必死で引きずった。


 無銘は只の刀なんかじゃない。何とかしないと、あの中にはミコが居るんだ。

 何が何でも掴まないと……ミコを助けないと!!


 必死に近づこうとしてる最中、俺達の視線が交わった。

 

「手足が見事に脱臼してやがるな。体中痙攣まで……ったく、どうやって動いたら、そんな無茶出来んだ?」


 鎮は魔石による回復をしながら、こちらへと近づいて来た。

 そして俺は、右手で喉元を捕まれ宙に持ち上げられたのだ──。


「は……離せ……」


 くっ、苦しい……。

 そ、それに、持ち上げられた事でミコとの距離が更に離れた。

 何とかしなければ……何とか!


「──にしても、本当に気味の悪い目だな」


 回復を終えた鎮は、左手で手刀を作り。それはゆっくりと俺へと近づいてきた。そして……。


「あ゛ぁぁぁぁ!!!?」


 あろうことか、鎮の指は俺の右目に食い込み、目玉を引き抜き抜いたのだ。

 悶絶すらろくに出来ない俺は、ただただ悲鳴を上げた。


 そして地面へと投げ捨てられる……。


 指で目玉をえぐり出された。それは、想像を絶する痛みが俺を支配する……そのはずだったのだが。 


 体だけじゃなく、頭までおかしくなったか? 思ったより痛くない……。


「俺がしばらく寝てる間に、世ではこんなおぞましいもんがボコボコ作られてるのか?」


 鎮が手にしている目は、正面は人の目にそっくりなのだが、その他は機械の様な生物のような……俺が知っているものではなかった。

 あれは義眼なんて代物ではない。なんせ今まであれを通して、世界を見ていたのだから。


「んなわけねぇか。それにしてもまったく、人のガキになんちゅうもん埋め込みやがる、あのジジィめ」


「それは……なんだよ? なんで俺の目にそんな物が」


 おかしいだろ? だって俺には、あんなもの埋め込まれた記憶はない。

 

「カナデ……その様子じゃ、お前はこれを知らなかったんだな?」


 ショックのあまり、返事をする事も出来なかった。

 俺は本当に、知らないことが多すぎる。


 生まれてすぐ目を奪われ、物心がつく前に、スキルだと思い込んでいた鑑定眼を埋め込まれていたって事なのか?


 もう、訳が分からない……。

 

「満身創痍だな? なぁ、何故こうまでして、お前がそこまで人類を守る必要があるんだよ」


 俺が、人類を守る理由? 


「……守りたい人達が居るんだ。それに、守りたい場所がある! だから例え命と引き換えても、俺は鎮──あんたを止めて‼」


「止める? その体でか?」


 ぐうの音もでなかった。

 例え体調が完璧だとしても、目の前の大きな存在には太刀打ちが出来そうにない。


「まぁしかし……良い覚悟だ、面白い。そうか、守りたい人達や場所があるのか」


 潰れたカエルの様に何もできない俺の目の前に、鎮めは座り込む。そして──。


「話せ、それはどんなものだ?」と、問いかけて来たのだった……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る