異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

４０５話 神在突き

「カナデ……お前、その構え」

　今までふざけた態度が目につく鎮が、俺の姿を見て息を飲む。

　この構えに、見覚えがあるのだろうか？

　俺は頭の中で、じいちゃんが稽古で使っていた技を思い出す。

　いや、あまり覚えが……。

　もしかして、俺が詳しく知らない──。

「ってことは、神在突き？」

　そういえば昔、じいちゃんに助けられた時に一度だけ見たことがある。

　その時、見ることが出来たのは技の出終わりのみで……しかし鎮のあの様子、きっと──。

【帯刀流剣術奥義　神在突（かみありづき）】

　に、間違いないだろう。

　神在突きとは、端的に言えば只の突きだ。

　縮地を多用し、動く相手に自身の最高速度で正面に立ち、勢いそのままに、低い体制から起き上がる様に突きを放つ。

　全身のバネを使い、身体中の至るところから力のモーメント絞り出すように放たれた突きを、一寸の狂いも無く目掛けたところに突き刺す。

　即ち、神業なのだが……。

「今までの技でも俺の体はガタガタなのに、そんなのもつのかよ……」

　先程以上の痛みと苦痛を想像して、恐怖した。

　今では目の前の化け物より、自分の体を動かしている鑑定眼が、よっぽど恐ろしい。

　しかし残念ながら体は、俺の意思を無視し勝手に動き出した──。

「あぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

　俺は突然の激痛で叫びを上げながらも、響の亡霊から、バック走で逃げる鎮を追いかけていた。

　その度に筋肉が、骨が軋み、心臓が激しく脈を打つ。

　痛い、痛い、痛い──！

　鎮は下がりながらも、寄るな言わんばかりにカラドボルグを振る。

　すると、先程見た魔物の肉をも削る砂塵が舞った。

　ハッキリと目にする事の出来ないそれを、最短、最適の動きで俺の体は躱（かわ）していき、少しずつ、少しずつだが距離を詰めて行く。

「くそ、寄るんじゃねぇ!!」

　鎮はこのままでは逃げ切れないと察したのだろう。

　その場に止まり、一心不乱にカラドボルグを振るった。

　そして、俺の目の前には砂塵の波が押し寄せてくる!!

「くぎぃぃ!!」

　体は一度神在突きの構えを解き、数度無銘を斬り上げた。

　その後すぐ、俺は迫り来ていた砂塵に飲み込まれる。

　……痛いほどの石飛礫（いしつぶて）が俺を襲うものの、肌が削られる程の痛みは感じない？

　魔王と対等に戦える勇者を、寸分たがわず真似ている俺の体らしいからな。

　鎮が起こした肉を削る砂塵を真似て、同じものをぶつける事により、一部相殺したのだろう。

　そして再び──体は猛然と走り出した!!

「──避けきれねぇ!?」

　砂塵の中から、俺は飛び出した。

　間近には、驚きの表情を浮かべる鎮が。そしてそこは、既に神在突きの射程圏内──。

　鎮は、咄嗟にカラドボルグを逆手に持ち替え、手を首元でクロスさせて魔石を守った。

　神在突きを使い、放たれた無銘は、カラドボルグを居抜き、右手を居抜き、左を突き刺した。

　そして、そのまま胸元の魔石に刃が届く！

　──そう思ったのだが……。

「…………あれ？」

　俺の視界は暗転し、次に映したのはどんよりと曇った空だ。

　右手、左足から力が抜けたような感覚がして、理解したときには地面を転げ回っていた……。

　自分の体に、限界が来たのだと──。