395話 騎士の演説
「お、俺は勇者じゃ……!?」
リベラティオの騎士の勘違いを訂正しようとした時だ──。
「こんな少年が?」
「そんな訳があるはず無い!」
っと、端から誰も信じては居ないらしい。
考えてもみれば勇者なんて眉唾、誰が信じようか? 訂正するまでも……。
「皆が信じられないのも分かる。しかし、巨大な龍の登場と共に現れたこの黒髪の少年、先程平然と魔物の先から現れたではないか! 彼が只者では無いことは一目瞭然。しかも彼は、あの龍は味方だと言っている!」
彼の一言で、俯いていた者の顔が上がった。
そして、俺をまじまじと見つめる……。
何かをすがるような目だ、それこそ藁にもすがりたいのだろう。
「騎士である私が断言しよう、皆の協力があれば勝てると! 今一度立ち上がれ!! この戦いは、未来永劫に語り継がれるだろう【勇気あるグローリアの民は、勇者と龍の神と共に、魔物の軍勢に打ち勝った】っと!!」
彼の演説を聞いた膝をついていた者達は、一人、また一人と立ち上がり武器を持つ。
先程まで死んだ魚のような目をしていた男達だが、今は希望と言う僅かな灯火が輝いている。
ここで下手なことを言えば、上がった士気がまた下がってしまうか……。
「我らリベラティオの騎士が、引き続き前に出て盾となろう! グローリアの英雄達よ、死にたくなければ共に立ち向かおう!」
「「「おぉぉぉー!!」」」
「さぁ! 我らは勇者様と神の加護を授かった。今が反撃に出る時!! ──突撃ー!!」
先程まで絶望していたのが嘘のように、男の号令で、槍や農具の長物、弓やボウガンを持った者達が走っていく。
勇者の名を出しただけで、これだけの効果があるのか……。
各国がそんな人物を欲しがる。今更ながら、その理由に納得だ。
戦場に戻る男達を見届けた後、見事な演説で士気を上げた騎士は、兜を目の前で取って顔を見せた──。
「すみません、カナデ様。私は代理の騎士団長をしているマーカスです。貴方が勇者として扱われるのを嫌っているのは姫から伺っていたのですが……」
爽やかな金髪、青い目のイケメン。
この人、やっぱり俺のことを知って。
「いえ、役に立てたのなら……。それより彼女は──トゥナは何処に居るんですか!?」
マーカスさんは目を伏せると、申し訳なさそうに答えた。
「それが……この異常な状況を打破すべく、魔物達がやって来る方へと、単身馬で……」っと。
「トゥナが……魔王の所へ?」
最悪の事態だ。
出来る事なら、関り合いになる前に連れ戻したかったのに……。
「流石に御存じなのですね……。この異変の元凶の常態を」
「はい、俺もリベラティオに立ち寄ったので」
──いや、諦めるな! いつからそんな諦めの良い奴になった、まだ間に合うかもしれないだろ!
でもどうする? 馬車ぐらいなら追い付けるが、人を乗せ単身走っている馬に追い付くのは、いくらなんでも無理だろう。
それどころか、先行く道で魔物の群れに襲われたら逃げ切れるか……。
俺が頭を悩ませていると、防衛網の方からは「行ける、押し切れるぞ!」っと、歓喜の声が上がった。
「私も行きます。今の状況でしたら、我々だけでも何とかなるでしょう。カナデ様は姫様を追いかけてください」
確かに、頭を悩ませれいても仕方ない。
急がねば──。
「分かりました……。皆さんには申し訳なく思いますが、俺はトゥナを助けに行きます」
「お気になさらず。貴方様が来なかったら、我々は長くはもたなかったでしょう。それに今の状況でしたら、撤退することも視野に入れれます」
兜を被り直し、マーカスさんは自分の背丈ほどの盾を手に取る。
もう少し……もう少しだけでも、何か協力が出来れば──。
「……マーカスさん。空から見たところ、イードル港の方はまだ現在でした。ソインさんも数日の内には、こちらの大陸まで来るかと」
「貴方を利用した私にまで、希望を……ありがとうございます! カナデ様、まずは教会に向かってください。我々が来たときに使った馬がまだ何頭か居るはずです。馬の足でしたら、魔物に追い付かれることも無いでしょう」
「でも、逃げるなら馬は一頭でも貴重じゃ?」
「こちらの事は大丈夫です、何とかしますよ。それより姫様を……よろしくお願いたします!」
カシャンカシャンっと音を立てて、マーカスさんは一人遅れ防衛網へと走っていった。
俺はそんな彼の背中を「ありがとうございます、気を付けて!!」っと見送り、その後教会へと向かい動き始めたのだった──。
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