394話 戦場

「──ミコ行くぞ! 無銘に!!」


「分かったカナ!」


 未だにフィーデス周辺では、戦闘が続いている。

 俺は町の人達に加勢をすべく、無銘を手に全力で走った。


 多くの命が散る、戦場の真っ只中に……。


 ククルカンの一撃は、大半の魔物を倒す結果となった。

 直撃しなかった魔物も、近辺に居たものは熱風や爆発の衝撃で、多くが生き絶えている。


「うぷっ……これが、本物の戦場……」


 死んだ魔物達の間を駆け抜ける。

 焦げた生き物の臭いが、鼻を突く。


 その中でも辛うじて生き残った魔物からは、うめき声のような苦しみの声が上がる。


 生命力が強いのだろう。

 四肢を失うほどの手負いでも、死ぬことは許されず、手足が一本でも残されているものは、それでも立ち向かって来る。


「来るか!? ──楽にしてやる!」


 腹部の一部と、片足を失った巨大な獅子が、突如飛びかかって来た。

 事前に予測していた俺は、足を止めることなく、体をひるがえし抜刀で斬り去って行く。


 音もなく、獅子の魔物は真っ二つとなり、崩れ落ちた。


 その後、幾度も通りすがりの魔物を、前に進むのに枷にならない程度だが、命を奪いながら走続けた。


 どんな理由でも、この行いが本当に正しいのか、正直な所わからない……。

 でも今は、龍の神ククルカンが言った事を信じるしかない。


 自問自答を繰り返しつつも、返り血を浴びようが、失われていく命の瞬間を垣間見ようが、立ち止まることは許されない。


 あえて言おう──これは地獄だと。


「でも、今だけは斬ることで救われる心もあると信じて!」


 俺は必死に駆け抜けた。肉の大地の上を、血の海の中を……。


 必死の思いでフィーデス近くまで寄ると、次第に人の死骸も視界に飛び込んできた。

 俺は同じような犠牲者を少しでも減らすため、抜刀で次々と魔物の首をはねていく。


 心を痛めながらも、少しでも苦しませないよう、全神経を研ぎ澄ませながら。

 一太刀、一太刀、命を奪った相手の姿を忘れぬよう瞳に焼き付けて……。


 いつしか人数と統率力で勝るフィーデスの人達は、少しずつだが魔物達を押し返し始めたようにも見える。


『カナデ頑張るカナ! 町の入り口が見えたシ!!』


「あぁ──突っ込むぞ!」


 背後からなら取り囲まれる心配も無い、奇襲をかける!


 フィーデスの人達に気をとられている隙に、次々と背後から斬り裂いて行った。


 少しでも多くの苦しみを減らすため、一心不乱に無銘を振い、目的地への通路を確保する。


「大丈夫ですか──応援に来ました!」


 最前線の魔物を蹴散らし、踏み台にして町の中に飛び込んだ。

 転がり起きた先では、鎧を着込んでいる騎士風の男が「君は!?」っと、目を丸くしている。


「もしかして、あの魔物達の中一人で突っ切ってきたのか?」


「えぇ、まぁ……」


 この鎧は確か、リベラティオの兵隊か?

 城で見た記憶が──って事は、トゥナが何処かに!?


 周囲を見渡しても、トゥナは居ない。それどころか、良くないものばかりが目についた。


 優勢になって来たとは言え、どうやら町の中では状況を理解しきれてはいないようだ。


「あんな化け物が出てきたらもう無理だ」


「俺達は死ぬんだ!」


 っと、うずくまる者も多くいる。


 士気が下がっている? どうやらククルカンの存在が、裏目に出てしまったようだ。

 何とかしなければ……。


「安心して下さい、龍神様は俺達の味方です!」


「先程の巨大な火柱は……龍神様の?」 


 鎧の騎士は悩んだ様子の後、俺を見て不適な笑みを浮かべた。

 そして、こう叫んだのだ──。


「皆、聞くが良い。龍の神が我らを救って下さる! 勇者様が言うことだ、間違いない!」っと。


 ………………あれっ?

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