第393話 命

 ククルカンから放たれた一撃は、魔物の軍勢の大半を亡き者とした。

 無事に残されたのは、フィーデスとその周辺の魔物達のみ、意図的に狙って行われたのは明白だ──でも。


「ククルカン、どうして……」


 どうして自らが生み出した子を、手にかけて……。もしかして、助けるため飛び出そうとした俺に気を使ったのか?

 仲間になった俺を庇うように、自身がつらい思いを……。


『自惚れるでない、別にわっぱの為では無いわ。生き残りの子らをよく見るが良い』


「生き残りの子らって……魔物の事か?」


 今だにフィーデスの入り口で、住人達と争っている魔物の姿をよく見つめる。


 個性豊かで、見たことの無い魔物も多い。

 多くは巨体だが、中には小さい個体も……。

 共通点と言えば、どの固体もやたら骨ばっている事しか──。


「もしかして……痩せてる?」


『良い着眼点だ。厄災の力により、闘争本能以外の全てを奪われたのだろう……。あれでは生きる屍と変わらん』


 それはつまり、あいつらは何も食べてはいない?

 そんなの……そんなの……。


「──可哀相カナ! ご飯食べられないのはすごくつらいシ!! 何とかしてあげたいカナ……」


 食べられないと聞いて、居ても立っても居られなかったんだろう。

 こんな話題の時ばかりに……っと言いたいところだが、ミコの意見には賛成だ。


「あぁそうだな、惨い話だ。ククルカン、あいつらはもう元に戻すことは出来ないのか?」


『あれは洗脳とは違う、核が別物に作り替えられておるのだ。一度失ったものは魂は元には戻るまい』


 くそ、なんだよそれ!


「許せない……命をなんだと思ってるんだ!!」


『何故わっぱが腹を立てる必要がある。我が子達は、主達の敵と認識しておったが?』


 確かに、ほとんどの人が魔物を敵と言うだろうな……。


 ──でも。


「でも、魔物だって生きているんだろ? 俺は知っている、魔物にも人間と心を通わせる事の出来るものはいる事を。俺は知っている……あいつらが人を襲うのは、生きるため、っと言う理由があるからだって事を」


 握りしめている手には、自然と力が入る。


 だってそうだろ?

 魔王ってやつは、生きる為に必要な最低限の権利を魔物達から奪い、しかもそのうえで私兵士として利用しているのだ。


 命を物だとでも思ってるのか!?


『主は本当に面白い奴よ。人……少しばかり興味深い』


 高度は下がり、フィーデスから少しだけ離れた陸地に降り立った。

 俺は彼の手から飛び降り、数日ぶりに大地に降り立った。


「ククルカン?」


『空の旅はここで終いだ。ここより先は、厄災の力が強まっている為寄れぬ。我は主を気に入った故、褒美で増援は我が食い止めよう。しかし入口近辺の子らは、我が手を出すと人もろとも殺してしまう、主ら人達で何とかせい』


 龍神は翼を羽ばたかせ、徐々に空へと登って行く。

 最初から最後まで、本当に世話になりっぱなしだ。


「──ここまで連れて来てくれてありがとう! 倒す約束は出来るか解らないけど、できる限りで何とかするから!」


 俺はフィーデスに向かい駆け出した。

 ククルカンの気持ちを無駄にしない為にも、一人でも多くの町の人達を助けるために……。

 そして、もしかしたらトゥナについての情報が何かしら手に入るかも……。

 そんな淡い期待を、抱きながら──。

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