第388話 湖でなく、ここは海

「──戦友ともよ、君の知り合いは中々ユニークな子達だな」


「せ、船長、いつの間に……」


 颯爽と現れる筋肉、もとい船長。

 何やらウサーズ達の事を気に行ったのか、随分ご満悦の様子だ。

 なんたって、胸筋をピクンピクンさせているからな……何度も言うが刺激が強い、やめてほしい。


「さあ友よ見るが良い! あれが我らが新たなる秘密兵器だ‼」


 船長の指が示す方角、そこには先ほどから話題の上がっている救助船が見え……。


「──って、スワンボートじゃないか‼ しかも二艘も!」


 そう、水面に浮かぶ優雅な鳥を模した船。

 白の着色に黄色のくちばし、ほのかな流線型のボディー……。


 デートスポットなどで湖や池に浮かぶアレと、大きさは除き、ほぼ同一の物なのだ。


「なんだいなんだい、戦友よあの船の存在を知ってたのかい? それにしてもその驚きっぷり、相変わらずいい反応をするじゃないか」


「いや、見た目そのまんまですよ。俺が知っている物よりは、随分と大きいですが」


 二倍……いや、三倍近くの大きさだ。

 可愛らしさとは無縁のサイズに、俺だけが驚いている。


「ふっふっふ、屈強な男達でも詰めれば十五人は乗れるぞ? しかも動力は四つ付いている。足腰を鍛える器具は少ないからな、順番待ちをするほど大人気さ!」


「……なるほど、納得だね」


 ソインさん──あなた、何に納得してるんですか!?


 だめだ、女性筋肉フェチの視線が熱いものへ変わってる。

 おやびんも「カナデちゃんと乗ってみたいわ!」っとか言ってるし、収集がつかない。


「しかしおかしいな、二艘とも動かないじゃないか……故障か?」


 そう、船長の言うように二艘は互いにより、動く気配がない。

 そんな時だ、俺の耳に何やら心地よいメロディーが聞こえた──。


「えっと、何か歌声が聞こえませんか? それにあのボート、何故か海鳥が群がってきてるような……」


「カナデちゃん、あれはうちの子達の仕業よ」


 ウサーズがあれを? 一体何のために……。


「おやびん、あいつらが何かしでかしてるのか?」


「そうよ。ウサーズ一のお調子者、シータちゃんが歌ってるの。彼の歌声は、全ての生き物の心を少しだけ引きつける力があるわ」


「あ、あいつに……そんな力が」


 歌が上手いとは聞いていたが、これは確かに……。

 腑に落ちないが、何処か心が癒される気さえする。


「そして、ウサーズ一の臆病者のディランちゃん。あの様子だと今頃彼が、海鳥ちゃん達と交渉をしている頃よ」


「え~っと……さっきから、一切まともな褒め言葉が出ないんだけど。交渉って一体何を……」


「──カナデ君見て見ろ、鳥がバラバラに飛んで行ったぞ!」


 ソインさんに声を掛けられ、俺はスワンボートに視線を戻す。

 群れを成していた海鳥は、バラバラに空高く羽ばたいて行く──。


「ディランちゃんが何を考えているか、何を言ってるかも小声で分からない事があるわ。でもいつも一緒にいる小心者ビーキチちゃんは、彼の言葉を決して聞き逃さない!」


 本当だ。


 遠目から見ると、ビーキチは身ぶり手振りで周りに何かを伝えているようにも見える。


「最後はリーダーのエースケちゃん。皆のまとめ役の彼なら、きっとなんとかしてくれる!」


 俺達の視線は、自然とスワンボートに乗るおとこ達に注がれる。

 彼らはいい顔でサムズアップらしきジェスチャーをすると、二艘は動きだしオールアウト号を横切ってチリジリと別れていったのだった。


 


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