第387話 懐かしの面々2

「いやぁー、戦友ともの登場で完全に忘れてたな」


 豪快に笑い声を上げる船長。

 ここまではっきり忘れていたと豪語すると、潔くすら感じる。


「私達の船からは救助出ているようだ。護衛する身で助力をこうのはおかしいかも知れぬが、貴殿にも協力を願いたい……」


「何を言っている御嬢さん。是非任せてもらおう」


 その話を聞いて、何を思ったのか。


「あら? それなら家のウサギちゃん達も連れていって、助けになるはずよ」っと、おやびんから提案がなされる。


「そうか、では協力を頼もう!」


 腕組みをしながら船長はニッコリと白い歯を見せた。

 とんとん拍子に話が進むと、救助の準備だろう、乗組員達に指示を出しながら、船長は何処かに歩いて行った。


 そして俺は、おやびんの言うウサギちゃん達が気になり、それについて聞き返す事に。


「ウサギちゃんって、もしかしてウサーズ達も居るのか──って事は、孤児院の皆も!?」


「えぇ、クルム村から逃げてきた子達が、いち早く危険を教えてくれたの。だから私達含め、フィーデスの女子供の大半は、無事に逃げ出せたはずよ」


 クルム村から? まぁどちらにせよ、孤児院の皆が無事で良かった。

 ハーモニーもきっと喜んで……。


「ただ聖母様だけは、自分の意思で町に残ったわ。戦場で傷つく人の手当てや、食事ぐらいなら作れるって……」


「──なっ!? そんな……なんて伝えれば良いんだ……」


 母親のように慕っていた彼女の安否がわからない……。

 連絡できるはずがない──そんなの落ち込ませるに決まってるだろ?


「ごめんなさいね、カナデちゃん。本来は私達も残るべきだったんだけど『何かあったときに、子供達は誰が守るのですか?』って、マザーにどやされちゃって……」


 そうか……。

 人の良い、あの人らしいって言えば、あの人らしいけど。

 そうだ、ククルカンに頼んでフィーデスの上も飛んでもらおう。

 状況次第で安否の確認もできるかもしれない。


 それにトゥナが、困ってる人を見捨てるはずがない。知り合いならなおさらだろう。

 だからこそ、上手く行けばフィーデスにいる可能性も……。


「そういえば、クルムの子供の中にファーマって子は居なかったか?」


「確か……居た気がしたわね。お父さんを助けに行くって、ギルドで暴れていた子供、その子がそんな名前だと思ったわ」


 そうか、ってことはファーマは無事と見て良いだろう。でも──。


「ところでさっき、女子供って言ったけど、他の大人達はどうしたんだ……? 皆が皆、魔物と渡り合える訳じゃないだろ」


 おやびんは目を伏せ、首を横に振った。


「残念だけど、馬車にも限りがあるの。矢面に立つのはギルドや冒険者だとは思うけど、逃げ切れないのが分かっている以上、戦わない訳にはいかないと思うわ」


 その話を聞き、召喚されたての頃を思い出した。

 理不尽で自由はなく、生きるためには必死に何かに抗い続けねばならない……甘えの許されないそんな日々を。

 

 俺がそんな事を考えていると、何かが着水する音と共に、あいつの騒がしい声が聞こえた──。

 

「大船に乗ったつもりで、俺達に任せるッスよ! ウサーズ出陣っス」


 この声は……もしかしてシータか?

 

 きっと、救助の船が出たのだろう。

 しかし、あいつの声が聞こえるだけで、不思議と不安にさせられる。

 今となっては、ウサーズが特定の何かに秀でていることは理解してはいるのだが……。

 俺は、泥舟にならないことを切に願うのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る