第384話 空旅
開拓村である、シュピーレンの村を出て一日ほどがたった。
『──おい、主らよ……。聞いておるのか、主らよ!!』
「き、聞いてますごめんなさい!」
鼓膜が破れそうな程の、大きな念話を上げるククルカン。
怒られる心当たりがあり、俺はつい謝ってしまった。
「ほら、怒られてるぞミコ! だから食べこぼすなって言っただろ。謝れ、全力で謝れ! お願い、謝って!!」
生きてる以上、腹は減る。
よって携帯食で空腹を満たす事にしたのだが。
しかしその結果、この様だ……。
流石の俺も、この状況で彼を怒らせたくはない。
このまま手を握られてみろ……ペチャンコにされてしまう。
「仕方がないカナ! お腹ペコペコの風がビュービューだシ!! 反省はしてるけど後悔だけはしてないカナ、むしろおかわりを要求するシ!!」
「お、お前何言って──神様なんだぞ、龍神様なんだぞ!!」
何とか謝らせようとするものの、食事中の精霊様は聞きやしない。
こんな時にまで、人の真似をしなくていいから!
それどころかミコの奴「携帯食ばっかで飽きたっちゃカナ。寒いから熱い物食べたいシ!」っと要求してきたのだ。
そんなもん、ククルカンの手の上に落としてみろ……。ペチャンコの未来しか見えない。
そんな俺達の様子を見てだろう。彼の口からは、炎混じりの溜め息が出る。
「あはは……スミマセン」
『はぁ……怒りなどしていない。生き物が食事を必要とするのは理解できる。しかしこの状況、少しは緊張感を持ったらどうなんだ?』
ごもっともで……。
「カナデカナデ。ボク地に足つけて、心行くまで食べたいカナ! 食べたりないカナ!!」
「いや、海のど真ん中なんだぞ。俺なんか島が見えるまでトイレも我慢してるって言うのに……」
「でもアレ、アレになら降りれるカナ」
あれって……何を言って。
ククルカンの指の隙間から、海上を覗き見る。
すると遠くの海面には、うっすらと何かが見えた……。
「あれは……船か? 何隻か船が見えるぞ──」
どうやら一隻の船を取り囲むように、四隻の船が護衛をするように陣形を組み、並走しているようだ。
しかし、それを眺めていると──。
「──って一隻沈んだ!? もしかして、何かに襲われてるのか!!」
側面の外壁が剥がれ、元の形を失った船はそのまま海中へと引きずり込まれていく。
そして浮かび上がってきたのは、無数の木片や船の残骸だった。
ウネウネと動くあの赤い巨体──もしかしてレクスオクトパスか!!
それに良く見ると中央の船、見覚えがる……。
レクスオクトパスだと思われる魔物は、その中央の船へと向かう。
「頼む、ククルカン! あそこに寄せてくれ!!」
『しかし我は子の争いには、関与する気は……』
「──助けてくれとは言わない、偶然上を通りがかった、それだけで良いから! 頼むよ!!」
俺の必死な頼みに「では、偶然上を通りすぎよう」っと、少し迂回する。
そして近づくと、アウトリガーがついている船影がハッキリと見える。
甲板に居るのは白Tシャツを着た男だけじゃない!? もしかして難民も……。
「やっぱり、オールアウト号──船長か!!」
それに魔物も、間違いなくレクスオクトパス。
この広い海で、二度も同じ魔物に遭遇するって……。
人の事を言えないがあの船、何かに呪われてるんじゃなか!?
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