第383話 昔の話

 景色が次々と過ぎ去って行く。

 陸地を抜け、山を抜け、海に差し掛かる。

 そして、ミスリルスライム達が住んでいた島も、みるみる内に遠ざかって行った。


「凄い速い……これなら」


 龍神の指の隙間から、凄まじい風が吹き込んでくる。

 俺が数日かけて走った道を、ものの一時間足らずで飛び去って行いるのだ。


「と、ところで……龍神さん」


『なんだわっぱ、我に何か様か?』


「まるで、俺があの村に居たのを知っていたようだったので……。なんでかと思いまして」


 そう、タイミングが良すぎる。

 俺の決意に合わせたように声が掛かった、それが気になっていた。


『こちらも頼み事をしている身、そんなあらたまった話し方でなくても良い』


「そうですか? それなら、お言葉に甘えます」


 もっと厳しい方だと思ったが、思っていたより親しみやすい人……いや、神様みたいだ。


『疑問に応えよう。この世界の枠組みから外れている存在、そんな者を気にしない神など居るまい。それだけの事だ』


「えーっとククルカン。つまり貴方は、俺が召喚者だって知ってて声をかけたって事なんだよな?」


『あぁ、神ならば主を一目見ればどの柱でも分かる。そもそもが召喚とは、人の神が脆弱な自らの子に授けた力ゆえ』


 人の神が、自らの子に? それってつまり──。


「元はと言えば、俺がこの世界に来たのは神のせい……」


 大切な人達が出来た今となっては、どうでもいい。

 しかしこの世界に来たばかりの俺がこの事を聞いていたら、きっと恨んでいただろうな。


『到着までは時間もかかる、少し昔話をしてやろう』


 ククルカンは、そんな俺の心を知ってか知らずか語り始めた。

 まるで俺には知る権利がある……そう言わんばかりに。

 

『遠い昔……獣の神は子に丈夫な肉体を。エルフの神は子に寿命と魔法の才を。そして人の神は幅広い知識を授けた。その知識の一つに召喚が含まれていたと言う』


「召喚は……神が人に与えた知識……」


『うむ。そしていつしか四種族はいがみ合い、争いを起こした。先の四種族戦争と呼ばれるものだ。あくまで子達の争い……神々は互いに、傍観を決めると決めごとをしたのだ』


 四種族の争い……二百年前の戦争の事か。


『しかしその大戦の最中。好戦的な魔族は、四カ国で最初に劣性となる。すると魔族の神は、条約を破り面白半分に自らの子に厄災の種子を与えたのだ』


「もしかして、それが……」


『察しの通り、人類が魔王と呼ぶ存在だ』


 確かその魔王の登場がきっかけで、三国が手を組んだって話だったな。


 劣性の国に、魔王の登場……。


 しかし、魔王一人のために国が手を取り合うものか?

 もしかして、当時も同じように魔物が集まってたとしてたら──。


「確か、ククルカンは魔物を統べる神様って言ってたよな? 魔物の異常行動についても何か知ってるとか……」


『うむ。実のところ、我はあえて子には何もしなかったのだ。すると我が子は多様な姿を持ち、その多くは本能で生きる生物へと進化した。しかし魔王の存在で、今までとは違った動きを見せた……』


「やっぱり、魔王が……」


『察しの通りだ。奴は魔力の結晶である魔石に、なんらかの形で干渉する力を持ち合わせている。我が子達を引き寄せ、そして近づけば最後……魔物達は魔王の私兵と化してしまう。我ですらも、あまり近づくと危険な程の力なのだ──』


 復活の話を聞いたときから、薄々は感じていた最悪の事態だ。


 神でも危機感を覚える魔王が、大量の魔物を引き連れて……。トゥナ、何事もなく、無事でいてくれよな。

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