第378話 迎え2

「ふっふ、またお義母さんと呼んでくれるのね、嬉しいわ。中に入りましょうか? どうぞお座りになって」


 侍女が車椅子を押し、トゥナのお母さんを部屋に居れると、テラスの大きな窓ガラスは閉められた。


 俺も進められるがまま彼女の対面となる、置いてある椅子へと座る。


「ありがとう、貴女は下がって。カナデ君と、二人っきりで話したいの」


「はい、かしこまりました。あまり御無理なさらないよう御願いします……」


 侍女の女性は心配そうな面持ちで深々と頭を下げた後、部屋から立ち去った。


 確かにトゥナのお母さん……以前より痩せて居るだけじゃない。

 化粧で隠してあるものの、それでも彼女の目元にはクマが見られる。


 流石に心配だ……。


「──それにしても、巫女の言う通りね。貴方が直接来たと言う事は、あの子を向かえ入れる準備が整った………っと言うことかしら?」


 巫女? あぁ、もしかして前にトゥナが言ってた占い師の事か。

 なるほど、俺がここに来る事が分かっていたと……まるで未来予知だな。


「はい、今日はトゥナを迎えに来ました」


「そう、嬉しいわ。しっかり約束を守ってくれたのね……」


 トゥナのお母さんに差し出された手を、俺は取った。

 彼女の細く、冷たくなっている手と握手を交わす。


「あ、あの……差し出がましい様ですが、体のお加減、宜しくないのでしょうか?」

 

「大丈夫ですよ。少し心配事があって、あまり眠れていないだけですから……」


 心配事で寝れてない…?

 それって、グローリアが滅びた事に関係が?

 いや、彼女のこの表情……何か、胸騒ぎが──。


「……あの──トゥナは何処に?」


 問いかけに対し、トゥナのお母さんは俺から目を背けた。


「ごめんなさい、カナデ君。実はあの子は……もう、ここにはいないの」


 やはりそうか……。


 彼女が寝れていない理由、それはやはりトゥナかここから居なくなったからだ。

 前の家出とは違い、今の彼女の体は呪いに蝕まれている。心配しない親が居るはずがない……。


「まったくあの家出娘め! 今度は何処でほっつき回ってんだよ」


「いえ、今回はそうじゃないの。あの子は今頃グローリアへ……騎士団を引きつれて支援へ向かったのよ」


「──っ!?  あんな体で……ですか?」


「えぇ……」


 なんで、その可能性を考えなかったんだ……。

 あれだけの大事件、確かにトゥナの性格じゃじっとしてられる訳がない。


「あまり怒らないでやってくださいね。あの子が向かった理由……それはあなたのためでもあるの」


「俺の……ため?」


 どういう意味だろう、今まで俺達と親しくしてきた人達を助ける、そう言う意味だろうか?


「……実はこの事は、他国へも口外してないらしいのですが──」


 この時は思いもしなかった。

 彼女の口から、その名前が飛び出すとは……。


「巫女の予言で──彼の魔王が復活したと……」


「魔王の……復活!?」


 それでどうしてトゥナが……。

 そんなの各国が手を取り合い、事に当たれば良いだろ!? 別に彼女が行くことは──。


「当然、討伐には勇者の孫であるあなたの名前も上がったわ。大臣や一部の貴族達は、断れないことを知っていて協力させようって……」


 きっと開拓村を人質にって事だろう、それは、十分考えられた事態だ。しかし……。


「でもね、あの子が『私が絶対に魔王を倒すから、カナデ君を巻き込まないで!』っと、リベラティオ王……私の夫に進言したのよ」


「トゥナが……俺の代わりに魔王討伐を──?」



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