第377話 迎え

 リベラティオに到着し、早速馬車で前回と同じ、城への入口へ向かった。


 入口の門番に事情を説明して、中へと入れてもらおうとしたのだが……。


「──中に……入れてもらえない?」


「申し訳ないが、現在リベラティオは第三警戒態勢が発令されております。そのため、城内は関係者以外の立ち入りを禁止されております」


 警戒体制って……もしかしてグローリアの影響か!


「そんな……誰でもいいから上に掛け合ってくれ! そうだ、ソインさんなら!?」


「駄目です、お繋ぎする事は出来ません」


「くっ……」


 何度も繰り返し交渉に望むものの、良い返事を頂くことは出来なかった。


 当然兵士の彼も、自分の責務があるのだろう。

 警戒体制中に、誰とも分からない輩の話を鵜呑みになどしないか……。


 ──こうなったら!


「この髪を見て分かりませんか? 勇者の孫が来たと言えば……!」


「──カナデさん!! ……ここは一度引くべきです。連絡なら、ティアさんを経由すれば行えるのでは無いですか~?」


「あ、あぁ……そうだな……」


 こんな都合の良いときだけ、じいちゃんの名前を出すのは確かに粋じゃない。

 ハーモニーが止めなければ、口に出していたな。


 なに、地盤が固まっているんだ……焦ることなど無いじゃないか。


 門番に背を向け、俺は馬車に乗り込みその場を立ち去ろうとした。

 しかしその時、重い扉が音を立て開いたのだ。


 そして──。


「お待ち下さい、カナデ様」


 っと、俺の名前を呼ぶ声がした。


「あなたは……どこかで?」


 門から顔を覗かせた女性には、見覚えがあった。

 メイド服に見を包み、凛とした立ち振る舞い……。確か、彼女は──。


「私は、フォルテア様の侍女です。我が主から、貴方を呼ぶように仰せつかりました」


「フォルテア様って……」


 そうだ、出した。


 彼女はパーティー会場で、トゥナのお母さんの車椅子を押していた女性だ。

 

「分かりました。ハーモニーは馬車を頼む。ルーム、ついて来てくれ」


「──いえ、今回フォルテア様が御呼びになったのはカナデ様だけです。他の方々には大変申し訳ありませんが、こちらで御待ち下さい」


 俺だけ? 一人は緊張するが、まぁいいか。中に入れるなそれで……。


「すまないが、俺しか立ち入り出来ないらしい。皆待っててくれ」


「分かりました~……交渉、頑張って下さい」


 俺は「任せろ!」っと右手を上げ、門の中へと足を踏み入れた。


「どうぞ、こちらです」


 俺は侍女の女性に案内され、後へと着いて行く──。

 

 緑のトンネルを抜け、庭園へと足を踏み入れる。

 周りを見渡しても随分と人が少ないような………。


 それは気のせいでは無いのかもしれない。

 場内に入り、目的の部屋に向かうまで結局ほとんど人に会わず終いだった。

 


「──フォルテア様、御客人を連れしました」


 四度のノックの後、侍女が部屋の扉に向かい声をかける。

 すると直ぐ「どうぞ」っと、か細い声が聞こえた。


 室内からの返事の後、侍女により部屋の扉が開かれる。

 大きな一室。そのテラスには、トゥナによく似た女性が、車椅子の上からこちらに微笑みかけていた。


 俺はそんなトゥナのお母さんに歩み寄る。


「お久しぶりですね、カナデ君。貴方が顔を見せてくれるのを、待ちわびてました」


 しかしその言葉とは裏腹に、彼女の表情は雲って見える。

 それだけじゃない……。よく見ると、前より随分と痩せて見えた。


「ご無沙汰しております。その……お義母さん──」

 



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