第376話 デート、後日談

「──凄く凄く甘酸っぱかったカナ! 流石のボクも、胃もたれするかと思ったシ!!」


 俺達は、当初予定していたプランをすべて終え、昼頃にララちゃんやウルドさんに見送られキルクルスを旅立った。


 そして、それから数日が過ぎた日のことだ。

 トゥナを開拓村に連れ帰る……その最終目的のため、リベラティオに向かい旅をしていた。


 しかしそんな中、今回の旅で一番のトラブルに見舞われてしまっていたのだ──。

 

「そんなにやったんか!? それでそれで、その後どうなったんや?」


 先の旅の反省を生かし、開拓村につくまでの間の食料制限を徹底する事にした俺達。

 しかしその結果、リベラティオ目前でミコの逆襲が始まる事に……。


「──驚いたカナ……。だってハモハモからカナデに、チューってしてたシ!」


 俺は失念してた……。


 あの時は場の雰囲気もあって、ミコの事をすっかり忘れていたんだよな。

 気を使ってなのか、黙ったままマジックバックか無銘の中から見ていたのだろう。

 現在、それを出しに仕返しを受けている。


  見せしめか? 話すなら後ろでこっそりやってくれれば良いのに……。


 ミコとルームは幌から体を乗り出し、わざわざ俺達のすぐ裏で声を大にして話し合っているのだ。


 当然、ハーモニーの顔はトマトの様に真っ赤。

 手綱を握る手は小刻みに震えている。


 当然俺も、恥ずかしさのあまり先ほどから体が熱い気がする……。


「ほんまか!? それでそれで、その後はどうなったんや?」


 もう黙って居るわけにはいかない!


 俺のことだけなら良いが、相手も居る。

 ここはビシッと言って、彼女に頼りになるところを見せつけて………。


「──お前達、いい加減にだな!!」


「その後のカナデ、ヘタレてたカナ!! 結局ろくに何も出来なくて、ハモハモにフォローされてたシ!」


「げふっ……!?」


 効いた、今のはかなり効いた……。


 事実、ミコの言うようにあの後、特に良いとこなしだった。


 俺なりに頑張った、俺なりに頑張ったんだよ!?

 でも今まで彼女とか居たこともないし、どうすればいいか分からなかった訳でして……。


 そして、何も出来なかった俺を気遣ってなのか?

 最終的に「カナデさんと一緒に居れた、それだけで特別な時間でしたよ~」っと、ハーモニーから助け船を出された形で、デートは幕を閉じたのだった。


「いやー兄さん、ティアの姉ちゃんから許可も出てたんやろ? 押し倒すぐらいせんとあかんで……」


「お、お、お、押し倒すってお前、何てこと言うんだよ!?」


 恥ずかしさの余り、ハーモニーが俯いちゃっただろ。どうしてくれるんだよ、この空気……。


 ──んっ……俯いて?


 手綱を握る御者が、俯いてるってことだよな?

 それってつまり、前を見てないって事にならないか……?


 って、案の定だ──!!


「ハーモニー!? 前、前を見ろ!!」


 目の前、馬車の進路上にはリベラティオ名物、巨大な金属の柱がそびえ立っている。

 そしてそれはもう、目前まで迫っていたのだ!


「──どう~どうぅ~!?」


 手綱を引き、ハーモニーが掛け声を掛けた。


 なんとか、金属の柱に突っ込む寸前で、馬車は辛うじて足を止めたのだ……。


「と、止まったか?」


 一同の顔面は蒼白だ。

 俺の手には、急ブレーキで飛ばされかけたルームと、彼女に必死にしがみついていたミコが居た。


 ヤバかった……。あと一歩気付くのが遅ければ、馬車ごと柱に突っ込んでいただろう。


「ふ、二人とも。もうこの話はやめような? 命が惜しかったら……」


「わかったカナ……」


「せ、せやな……」

 

 今回の事を機に、あのデートについてからかわれることは無くなった。

 よっぽど怖かったのだろう……リベラティオにつくまでの間、二人はお行儀良く荷台で大人しくしていたのであった。

 

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