第370話 懐かしき、キルクルスギルド

「カナデさん聞いてますか、カナデさん~?」


 俺達はラクリマを離れ、数日をかけキルクルス周辺までやって来ていた。

 ぼーっとしていると、ハーモニーが呼ぶ声が聞こえる。


「あ、あぁ聞いてるよ。 何かあったのか?」


「いえ。今更ですが、どうしてキルクルスなんだろうな~っと思いまして。通り過ぎてしまいましたが、もっと近くにアウラダがありましたよね?」


 確かに。シンシの事件があった後俺は、あの町の状況を知らない。


 現在のアウラダの状況は確かに気になる。

 しかしキルクルスの方へ寄りたい理由が、俺にはあったのだ──。


「ほら、キルクルスの方が町の規模が大きいだろ? 食材の種類もだけど、魔物についての情報収集もしたいからさ」


「なるほど、そう言う事なんですね? 前回来た時は、あの綺麗な町並みを全然堪能できませんでしたからね。少し楽しみです~」


 両方寄ると言う手もあるが、あまり遅いと皆を心配させるからな。ただでさえ、予定外の寄り道だし……。


 実は、キルクルスを選んだのにはもう一つの理由がある。

 それは一度、自分が手助けをした薬屋をしていた少女の様子を確認したい、そう思ったからだ。


「実は他にも、ハーモニーが居ないときに受けた以来があって、その時の依頼主の様子を確認しとこうかと思ってな?」


 念のために言っておいた。黙っていたら、きっとまたどやされるから……。

 学習した、偉いぞ俺!

 

「──そう言えば、うちもキルクルスにはずっとおったけど、その依頼主と顔顔を合わせてへんな」


  うちの引きこもりが、突然馬車の荷台から飛び出した。

 なんだよ、唐突に……。


「なんだ、聞いてたのか? ルームはトゥナの看病の後、ずっと宿の部屋に引きこもってただろ? 『これで気兼ねなく打ち込める!』って」


 該当販売の製作物の準備は手伝ってくれたが、それでも部屋から一歩もでなかったからな。

 もしかしたら、体調が良くなったトゥナや、ずっと塞ぎこんでたティアに気を遣ったのかもしれない?

 って、自分の欲望に素直なルームがそんな気を回すことは無いか……。


「──カナデさん、ルームさん。見えましたよ、キルクルスです~」


 広大な湖の中心に浮かぶ、セピア色の巨大都市が見える。

 言うまでもない、水の都市キルクルスだ。


 橋を越え、町の中へと入っていく。

 そして数多あまたある水路を越え、町の中央にあるギルドへと向かった。


「いや~ここも懐かしいな」


 ストーキングキングと決闘をし、街頭販売をした噴水のある広場だ。

 ルームに馬車の留守番を任せ、俺達は広場の向かいにあるギルドに、足を踏み入れた──。


「それにしても、なんか冒険者が少なくないか?」


 前はあれだけ賑わっていたのに、今は随分とこざっぱりしてる。

 真っ昼間だから……って事は、流石にないと思うけど。


 順番待ちもいないため、受付カウンターもすぐ席に着くことが出来そうだ──。


「あ、貴方は確か、麗しき観察者の御仲間!?」


 彼女は、初めにララの対応をしていた職員の女性か。

 俺は席に着き、早速彼女に目的の情報を問うことにした。


「こんにちは。すみません、ここ最近の魔物の異常についてお聞きしたいのですが……」


「しょ、少々お待ちください! 今すぐ、上の者を御呼びしてきますので!!」


「あっ、情報が欲しいだけなので……」


 制止も空しく、ギルド職員の女性は部屋の奥へと去っていく……。

 職員の異例であろう待遇に、俺達はソコに居る人達の注目の的になる。


「あの方、少し怯えていましたね~」


「兄さん、今の嬢ちゃんに一体何をしたねん」


 俺達三人に集まっていた視線、それが俺一人に向けられる。

 それどころか、仲間である二人の厳しい目も、俺に向けられていた──。


「してない! 本当に何もしてないから!!」


 きっと、前回のティア影響力が原因だろう。

 先程の彼女が行った上の者が来るまで、俺は冷ややかな目にさらされるのであった……。

 

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