第369話 食レポ

「──な、なんやこの食べ物は、ごっつ旨いやないか!?」


 チキンカレーを食べていると、皿とスプーンを持ったルームが突然立ち上がる。

 そして──。 


「今まで食べてきた煮込み料理とはまるでちゃう、兄さんがさっき言ってたスパイスっちゅうのが、玉ねぎ、トマトと混ざり合い調和しとるやないか! ソースの部分も主役、チキンも主役なのに互いが喧嘩してる訳やない、高め合っとる! 食のライバル関係や!!」


 っと、謎の熱弁を始めたのだ。


「あ、あぁ。気に入ってもらったようで何よりで……」


 喜んで食べてくれてる……って解釈で良いんだよな?

 嬉しい事は嬉しいのだが、ここまで言われるとかえって胡散臭いだろ。


「カナデさん。少しだけ辛いですが~、本当に美味しいですよ?」


 はふはふと食べながら、スプーンを握りしめるハーモニー。

 その姿が無性に可愛くて、愛らしい。

 つい手が止まり、そんな彼女の姿に見入ってしまった。


 俺がじっと見つめていたため、当然その事はハーモニーにも気付かれたわけで……。


「ほ、ほら、水だよ。これでも辛さは控えたんだけどな? 次はもうちょっと辛みを抑えないとだな」


 食事中の女性の顔をガン見って、何してるんだよ、俺!


 顔を染め、口元を手で隠すハーモニー。

 なんか少し、いけないことをしてしまった……そんな気分にさせられる。


「ミコは美味しいか? って、言うまでも無さそうだな」


 恥ずかしながら、チキンカレーを次々と頬張るミコをしにごまかした。

 だからと言ってハーモニーの赤く染まった頬が戻る訳でも無く、俺と彼女の間には気まずい雰囲気が流れる。


 しかしそんな様子を見てだろう、ルームが俺にウインクをしてきたのだ。


 ──よかった、助け船が出るみたいだ!


「いやー、しかし毎度毎度驚かされるわ。こんな美味しいものばかり出してくれるんなら、ウチも兄さんの所に嫁に行ったってええんやで?」


 違った、泥船だ! しかもとびっきりのやつ!?


「はっは……ルーム、冗談でも止めてくれ。俺刺されちゃうから」


 だからさハーモニー、むくれながら何か探すの止めない? 可愛いけど恐怖だよ……。


「そ~ですねそ~ですね! カナデさんはそうやって、いつもいつも女の人の胃袋を掴んで、離さない気なんですよね!」


「拗ねるなって。安心しろ……っていうのもおかしいけど、その気なんてさらさらないから」


 泥船を浮かべた当の本人は「振られたわぁ」っと、大きな笑い声を上げている。


 こいつ、絶対に楽しんでやがる……。


 ただ、変な汗をかかされたのも無駄にはならなかったようだ。

 高笑いするルームに当てられたのか、頬を膨らませていたハーモニーもいつしか笑顔を見せた。


 話を変えるなら今だろう。


「まあいい。冗談は置いておいて目的の物も無事に手に入れた、この後リベラティオ……までは数日分食料が足りそうにない。よって次の目的地は、キルクルスにしようと思う。良いかな?」


 彼女達に異論は無いようだ。

 食料の買い出しだけではなく、ティアへの連絡、魔物の異常もギルドが何か掴んでるかもしれないからな。


 それに、気になることもあるし──。


「じゃぁ決定だ、このまま野宿して早朝出発しよう。朝方は冷えるから、俺とミコは先に寝て備えるよ。夜の番は二人に頼むよ」


「はい、おやすみなさい~」


「分かったわ、まかせとき!」


 よし、彼女達の同意も得た。


 俺はカレーを食べ終え、フライパンを新品のように綺麗にしてくれたミコをつまみ上げ、馬車の中に引きこもる。


「見事にスッカラカンになってたな。カレーは二日目の方が美味しいのに……」


 っと俺は、誰に言うのでもなく呟きながら毛布を羽織り、目を閉じたのであった。

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