第355話 世界一優しい村

 あの後俺は、シバ君に頼み村の住人を集める様に頼んだ。

 すると彼は、どこかともなく大きな鐘を持ち出し宿へと突入──屋上から姿を現すと、手にもった鐘を力一杯鳴らしたのだ。


 これが、俺がバルログ退治に向かった際に決められた、緊急時の連絡手段らしい……。 


 鐘の音を聞き、俺の家周辺に続々と集まる村人達。

 それとは別に、エルフィリアの来客達も何事なにごとかと、宿の窓から顔を覗かせていた。


「カナデ様、皆様が集まられたようですが」


「あ、あぁ~……」


 何だろう。人を招集する度に増えてないか?


 一昔前までは、教室の前に出るぐらいの感覚だった。

 しかしいつしか、学校の全体集会で全教員、全生徒の前に立たされている……そんな規模に変わっているのだ。


 俺は「ぼやいてても仕方がないか……」と諦めつつも、いつの間にか準備されていた朝礼台に上がった。


 そして早速用件を話すことに──。


「あ~昨日、エルフィリアから物資が届いたのは知っていると思う。その際に相談を持ち掛けられて……。今回はその事について、皆に集まってもらった」


 誰一人、無駄話をしない……。

 真面目に真っ直ぐと俺に注目する村人達。

 これは……緊張で汗が滲むな。


「おほん! 回りくどく言っても仕方がないから端的に言う。海の向こうの国である──グローリアが滅びた!」


 流石の内容に、行儀の良かった村人からもざわめく声が聞こえる。


 俺は彼らに、キサラギさんとのやり取りを詳しく説明した──。


 どういう経緯で連絡を受けたか。


 難民が行きついた際、俺はこの村で受け入れたいと思って居る事。


 言いづらかったが、それによって得られる報酬がキサラギさんで、彼女が居れば俺の大切な人をこの村に招き入れる事が出来る事も全て話した。


「──今回の問題が都市単位なのか、国単位なのかの情報も無く、どの程度の規模なのか想像もつかない……。ただこれだけは言える! 争いにより国を、町を、村を追われ、それでも必死に生きようとしている人々は、必ず居る!」


 そう、少し前の俺のように。


 自分も国に追われ、ずっと逃亡生活を行っていた身。

 何かに追われ続ける……それだけで多くの人はストレスを感じ、不安を感じてしまう。


「この事を皆に相談すること自体、酷かもしれない……。欲が無いと言えば嘘になる。ただ俺は、必死に逃げる難民に手を伸ばしてやりたい。……やっぱり駄目かな?」


 質問は覚悟の上だ。

 元より彼らの事を考え、断るつもりだったんだ。別に、嫌だと言われても……。


「村長、そんなの聞くまでもありませんよ!」


「ああ、そうだよな! そんなの迎え入れるに決まってる!」


 村人の中から、ポツリポツリと声が聞こえる。

 当然ダメだよな? こいつらの境遇を考えれば、誰もが否定する…………はっ?


 今なんだって? 聞き間違えじゃなければ──。


「い、いいのか!? 自分で言うのもなんだけど、正直ダメ元なんだが」


 人込みの中、うろたえる俺の前にシバ君が満を持して出てきた。


「宿屋のトリさんと、甘栗売りのキキさんの言う通りです。それにカナデさんが僕達に『優しい村を俺たちの手で作るんだ』って言ってくれたんです。忘れてしまいましたか?」


 もしかして、あの時の話を皆覚えててくれて?


「それに、差別をしてきた奴等が俺らに施しを受ける。またとない屈辱だと思いますしね」


「違いねぇ。逃げ延びてきた奴等を、特別待遇で向かい入れてやろうぜ!」


 トリさんとキキさんと呼ばれた二人の掛け声で、他の村人が湧きたつ。

 誰一人として、否定的な声を上げずに……。


「それでは僕達は早速、その難民達を受け入れる準備として衣食住を優先し作業を行いたいと思います!」


「──あぁ、それとシバ君」


「はい、なんでしょうか?」


 難民を助ける、確かにそれも重要だ。

 しかし大前提を忘れてはならない……ここは、彼等の村だと言う事を。


「難民を受け入れるにあたり、正式にルールを作る! 村内での『争いを禁じる』そして『差別を禁じる』大まかにはこの二つだ。具体的な内容は皆で話し合って決めてもらいたい。命を奪う罰は許可できないけど、村を追い出すまでは許可するから」


 今後、もっと多くの規則が出来ていくだろう。

 平等ですべての人を守る、そんな理想に近いものになればと、切実に願う。


「全部任せっきりですまない。皆がこの村の住人で本当に良かった。俺の誇りだ!」


 一段高い場所から見る皆の顔は、どこか誇らしげで自信にあふれている。

 自分が選んできた道が、間違いでは無かった……それ今確信に変わった。


「さぁ、仕事を始めましょう! グローリアの町の住人すべてを受け入れる事が出来るぐらい、発展させましょう!」


「「「おぉぉぉ~!」」」


 シバ君の音頭に合わせ村が震えた……。


「はっは……流石にそれはやりすぎだから……」


 彼等が言うと、冗談に聞こえないからな恐ろしい。

 どうしよう。次、外出して帰ってきた時に城が立ってたら……。


「ま、まぁキサラギさん、見てのとおりです。難民が来た際にこの村で受け入れる事を約束します」


「──良き仲間を持ったの、奏。依頼の件は感謝する。どちらにせよ、確認せねばなるのことがあったのじゃ……この村の名をおしてはくれんか?」


「……あっ、そう言えば」


 すっかり忘れてた、最初に決めそうなものなのにな。

 俺は嬉しさと可笑しささで、つい声を上げて、そん場で笑ってしまったのだった。

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