第356話 実験

「はっはっ、結局村の名前の事も、皆に押し付けて来ちゃったな……」


 村人の意思を確認後、悪いとは思いつつも、俺はミスリルの加工の為に鍛冶場へと足を運んだ。


 エルピス皆が集まりつつある現在、シンシだけが居ない……そんなのは可哀想だからな。


「村の名前、ボクがつけたかったカナ……」


「却下だ。お前がつけると、村が食べ物の名前になりそうだしな」


「……」


 黙ったまま、ミコは露骨に視線を反らす。


「否定……しないのな?」


 どうやら、うちのムードメーカーは相変わらずみたいだ……。


 そもそもが皆が、頑張ってここまで物にした村だ、名付ける権利は当然彼等にある。

 ただひとつだけ、条件は出してきた──俺の名前を使わないこと! っと。


 流石に自惚れか? なんて思ったけど、シバ君だけは、顔が絶望してたな……。条件を出してきて良かった。


「さてと、じゃぁ作業に入ろうか。ミスリン、頼むよ」


「分かったスラ!」


 俺は、ミスリンが前に脱いだミスリルの外皮を、動かない様に鉄の杭で固定した。

 ミスリンはそれにめがけ全力で体当たりをする。


 すると衝撃で、艶やかに輝く本体の方だけにヒビが出来ったのだ。


 そしてそのヒビの隙間から、ニュルンっと青色の中身がが飛び出して来る。


 よし! これで、ミスリンの脱け殻が二つに増えたぞ。

 それにしてもミスリルスライムの脱皮、何度見ても不思議な光景だな。


「おぉ~良い脱ぎっぷり……」


 とりあえず誉めとけ! って事で、感謝の意味を込め手を叩いた。


「主~……あまり凝視しないで欲しいスラ、火を吹くほど恥ずかしいスラよ」


「す、すまない……そう言うものなのか?」


 どうやら、ちょっとセクハラだったらしい……。


「さ、さてと。ミスリンのお陰でミスリルも手に入った、早速試しに叩かせて貰おうか」


 いきなり本番で刀を打つわけにもいかないからな。

 少量の材料で、ミスリルの融点や硬さ、粘りなどの特性も確認しないと。


 俺は、金属を熱するために使う火床ほどに火をべ、ふいごを使い空気を送る。

 しっかりと熱し上がるのを確認後、ミスリンの脱け殻であるミスリルをその中へと入れた。


 上から燃える炭を被せ、更に鞴で空気を送る……。

 しばらくして燃える炭をあさると、中から少し赤く染まるミスリルが顔を除かせた。


「この色味……鉄だと、そろそろか?」


 赤色に染まり、充分に熱されたミスリルを火箸で取り出し、金床かなどこに置いた。

 

 左手の火箸で、ミスリルを動かぬように固定。そして、右手に槌を握る。


 確認方法は、言うまでもなく──決まっている!!


「鉄は熱いうちに打てってね──!」


 槌を大きく振りかぶり、振り下ろした!

 金属同士がぶつかる音が部屋に響き、目の前には火花が散る。


「──なっ!?」


 叩きつけた槌が、跳ね返えされた!?


 普段金属を叩く際、柔らかくなっていればいくらか衝撃を吸収し、見た目にも変化があるはず……。


「この手応え……全然柔らかくなっていない。熱する温度が低かったのか?」


 もう一度だ──!


 ミスリルを火の中に戻し、鞴で空気を送り炭を足す。

 火床の温度をあげ、再挑戦……!!


 ガキンッ──!!


「──くっ、これでもダメか!?」


 先程より、しっかりと熱したが結果は変わらない。

 ミスリルの叩ける温度は、一体いくつなんだよ……。


 普段取り扱う鉄なら600度~1000度もあれば形状が変わる。ミスリルの加工に必要な温度は、もっと高いのか……。


「火床じゃ駄目か……仕方がない、こうなったらこっちの大きな炉を使って──」


 これだけのために、こっちの炉は使いたく無かった……。

 使用する燃量が桁違いだし、何より扱いに精通してないんだよな。


 本来こっちは、金属を叩けるよう熱するのではなく、溶かし液体にするための炉。

 まさか、こんな形で使うことになろうとは……。


 部屋の窓を全開にし、炉に火を灯す。

 骸炭コークスに火がついたら、鞴で空気を送り、燃料を追加した。

 それを何度も何度も──何度も繰り返す。


 目の前の炎が、よく見る赤色から、銀を帯びた赤へと変わる……。


 鉄も溶ける温度だ──これなら!!


 ミスリルを中に入れ、そのまましばらく見守もった。

 そしてしばらく時間が経ち、そろそろ頃合いだと思う……。

 

 俺は熱したミスリルを火箸で掴み、外に出した──。


「さっきより赤白くなってる……これなら!!」


 冷めぬよう、急ぎ金床の上に乗せた。

 

「これで──成功してくれ!」


 念のために、もう一回り大きな槌に変える。

 そして俺は、それを熱したミスリルめがけ、振り下ろした──。

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