第347話 ただいま

 倒した魔物を引き、俺達は身辺護衛を残し、シバ君と村の中へと向かっていた。


「──ところでシバ君達が護衛に当たっていたみたいだけど、ソインさんや冒険者は休憩中なのか?」


「いえ、よくわかりませんが。彼女は大半の冒険者を連れて、リベラティオに向かいました。カナデさんに『急用だから、よろしく伝えておいて』っと、言われております」

 

 なるほど……突然のこの天候、監視役の彼女が居なくなるのは、少しキナ臭いな。何もないと良いんだけど。


 それにしてもまぁ、柵も立派になって……。

 

 出入り口の門には、見張り台どころか、いつしか簡易ながら関所も建っている。

 魔物だけではなく、今後は行き交う人にも、監視の目を向けないといけない……そう言う事だろう。

 

 門を通過すると「村長、おかえりなさい!」っと敬礼する村人達。


 彼等に先程の魔物を預け、俺は村の中へと向かった。


「──本当、ここには帰って来る度に驚かされるな……」


 ミスリルを取りに行って、二、三週間程だったはず。

 人材が増え、物資があるからと言えこの発展速度……どれだけ働き者なんだよ、ウチの村人は。


 柵や堀はまた、二周り以上拡張が進んでいた。

 それにともない建物も増え、中央の通りは露店なども増えており、商人や買い物客で活気づいている。

 畑の規模も三倍以上に……収穫が出来れば、自給自足も夢ではなさそうだ。


「カナデさん、見ていただいた通り開拓は順調です。他にも新たな住民の管理、住居の建設、共通硬貨の導入試験に、それに伴う露店の開店。外周の柵のメンテナンス等々、勝手ながら着手させていただいております!」


「お、おぅ……問題ないよ。ここは皆の村だし、俺もあまり難しいことは分からないから。今後も詳しい者をリーダーに祭り上げ、作業を進めていってくれ」


「──任せて下さい! カナデさん補佐官の名に懸けて!」


 え、何? その役職。


 確かに俺は立場的には領主かもしれないが、知らないうちに、村の責任者あたりの重役にも、祭り上げられてないか?


「いや、命令って訳じゃ……」


 ソインさんに鍛えられてきた彼は、いつしか軍属みたいな雰囲気に。

 心なしか、体格も良くなってるような……。


「と、所で、露店って何を販売してるんだ?」


 触れるのは止めておこう。別に悪いことなどひとつも無いわけだし……。

 それよりなんだか、甘い臭いがするんだけど。


「あ、はい。主に収穫物ですね。他にも簡単な加工食品、木工製品等も取り扱ってます。この前カナデさんに作り方を教えていただいた甘栗が特に人気ですね」


「甘栗? 確かに美味しいけど、そんなのが人気なのか?」


「はい! 勇者様も愛した甘味ってフレーズが効いているようで。商人や冒険者の方は、特に手土産にとこぞって買いに来ているようですよ。ドリアード様が居るので、原価もかなり安いです! ボロい商売です!!」


 ボロい商売とか言わない!

 それにしても……貿易が始まってきたか。


 村内は現在、物資を分配してるだけが現状、いつまでもそれを続けるわけにもいかないしな……。

 

「本当……逞しいな。それじゃ、そのまま引き続き頼むよ。知識や専門家が足りないようなら言ってくれ、手配するから」


「はい、お任せ下さい!」


 俺はシバ君に作業を任せて、そそくさとその場を後にした。


 経済の事だ、どちらにしろ、リベラティオや他の国にも、一度相談を持ち掛けよう。

 ノウハウを教えてもらうとしても、一国だけだと手玉に取られるかもしれないしな。

 それに、いつまでも物資の提供をしてくれるとは思えない。今後の事も、話し合わないと……。


「でも、今はそれより!」


 足が自然帰路に就く。

 こんなどんよりとした天候でも、足取りは軽く、まっすぐとティアが待っている我が家へと向いていた。



「──ただいま、今帰ったぞ!」


 ティアの顔が少しでも早く見たくて、ついギルドの入り口である勝手口から家の中へと入る。


 そこには数名の冒険者と、目を見張る程美しい、ギルド職員のティアの姿が見えた。


 俺の声を聞いてだろう、冒険者達に向ける営業スマイルではない。

 心を許している仲間達だけに向ける、とびっきりの華が咲いた様な笑顔に変わる。


「──おかえりなさい、カナデ様!!」


「ティ、ティア!?」


 ティアが、ガタン! っとその場を立ち、俺に飛びかかり抱き着く感動の再開……そのはずだったのに。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る