第348話 ご褒美

 ティアの奴、あろう事かカウンターのテーブルを容赦なく倒し、それを乗り越え真っすぐと俺に抱き着いてきたのだ──接客中だった冒険者もろとも……。


「お、おいティア。誰かテーブルでつぶしたぞ!」


「大丈夫です些細な事なので。それよりカナデ様……御無事で何よりです」


 冒険者なら日頃鍛えている、体が頑丈だし些細な事──ってそんな訳がないだろ!

 流石に周りに居る、数名の冒険者が引いている。


「大丈夫じゃないだろ!? 冒険者さん、お怪我はありませんか……?」


 俺は、テーブルの下敷きになった冒険者を覗き込む……。


「──貴様……どうやら無事に帰ってきたようだな!」


 ストーキングキングだ……こいつ、またギルドの営業妨害をしていたのか?


「なんだお前か、じゃぁいいや。ただいまティア」


 見て見ぬ振りをして、感動の再開をやり直すことにした。

 しかし、そうは問屋が卸さないらしい。


「──良かないわ! それに人前でイチャつくんじゃない、ティアさんから離れろ!」


 くそ、しぶとい奴め。

 コイツが居ると、話が進まなそうだ。


 俺はマジックバックから木材などの資材を出し、追加で奴に乗せる準備をした。

 大丈夫。頑丈なのは良~く理解しているから。


 ストーキングはその姿を見てだろう。


「貴様、やるなよ、やるなって……絶対やるなよ!?」っと自らネタを振ってきたので、彼の期待に応え、乗せていくことにした。


 ……まったく、笑いに貪欲な奴め。


「──ところでカナデ様。その魔物は……?」


「ん、魔物?」


 ティアの視線を追うと、いつの間にか俺の肩から降りているミスリンが居た。

 何故か他の冒険者と同じく、引いた視線をこちらに投げかけているのだが……まぁいいか。


「あぁ、紹介するよ。コイツは新しい仲間でミスリンって言うんだ。島で色々と世話になってな」


 まぁ、良くも悪くも……だけど。

 空で命を奪われかけ、バルログからは命を助けられた。

 考えても見れば、不思議な縁だよ。まったく。


「はじめましてスラ。僕ミスリン、悪いスライムじゃ無いよ。主の奥方、どうぞよろしくスラ!」


「──まぁ、奥方だなんて! カナデ様、この魔物、中々に見る目がありますね!!」


 コイツ、やりやがった。

 二つの意味でやりやがった……。


 ってそれより──。


「普通、話すことに驚かないか……? 実は話す魔物、珍しくないとか……」


「言われてみれば……これは驚きですね!」


 俺が居るせいだろうか? 少しポンコツの方のティアだ……。


「まぁいいや。詳しい話は落ち着いてからにしよう。ティアは仕事に戻るように、俺は後片付けしてくるから」


 意気消沈いきしょうちんしているストーキングキングを引きずり出し、シバ君の所に連れて行く。

 彼に引き渡して、しばらく手綱を握ってもらおう……。

 監視がいないと、またティアの所にホイホイと行かれても面倒くさいしな。


◇ ◇


「それにしてもカナデ様、無事で何よりです。随分早いお帰りでしたね?」


 日も随分落ち、夕食の時間。

 久しぶりに家族で囲む食卓……しかしルームは、ハンググライダーの一件で消沈中。

 でもバルログの素材が一部でも入って、喜んでもいたっけ?

 悲喜交交ひきこもごもってやつだろう……忙しい奴だ。


「ミスリンのお陰で、ミスリルを現地で探す手間も省けたしな。その分早く帰ってこれたんだよ」


「バルログだって退治したカナ! ボクの新技が炸裂ダシ!」


「ふっふっふ、それは共に興味深い話ですね──」


 この後も会話は弾み、楽しい時は流れる。

 ただ心なしか、どこかうかない顔を見せている様な……。


「──どうかしたか?」


「いえ……。ただ本当なら帰ってきた時には、ご褒美を準備しておきたかったのですが……」


 あ~そう言えば、出発前にそんな事を言ってたな。


「確か、キスの時の? ところでそのご褒美って……」


「──モゴモゴモゴ。カナデ、食事中なのに顔がよこしまカナ」


「べ、別に邪じゃないし! そもそも顔が邪って何だよ!」


 俺達のやり取りを見て、ティアが「やっぱり賑やかいのは良いですね」っと笑顔を見せる。

 その表情はずるい。少しだけだけど、邪な感情が……。


「秘密にしていても仕方ありませんね。実はかねてより、こっそり連絡を取っていたエルフィリアからも、近い内に物資が届く予定なのです」


「えっと……エルフの国だっけ?」


「はい。様変わりしたあるようなので、カナデ様ならお喜びになるかと思いまして」


 物資だけでもうれしいのに、さらに食材が増えるのか!

 

「そうか……珍しい食材か」


 それを聞いただけで嬉しくなっちゃうから不思議なものだ。

 エルフィリアからの物資、早く届かないかな──。


 

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