第339話 バルログ戦2

「驚いた……バルログも言葉を話せるのか? 話せる魔物が目白押しだな」


 そう言えばミコが言ってた、長く生きた魔物には話せるのも居るって。

 バルログの討伐依頼は、百年以上未達成。

 つまりコイツは、百歳以上の魔物だ……話せてもおかしくないと言うわけか。


「会話が出来て、しかもさっきの行動……ある程度高い知性を持ち合わせている証拠か?」


 話し合いで解決……は無理そうだな。


 ただ知性があるなら、多少手痛い目を見てもらい、何とか自ら手を退かせるって手段もあるか……。


「ピ、ピギィー!」


 こちらに向かい歩く、化け物をみながら考え事をしていると、一際小さなミスリルスライムが騒ぎ立てた。


「な、なんて事スラか!?」


「どうしたミスリン、急に大声をあげて?」


「人間、悪い情報スラ! さっきのいざこざにかこつけて、何人かの仲間がこっそり偵察に向かったみたいスラ。どうやら、唯一の出口が大岩で塞がれているみたいスラよ!」


「──なっ!?」


 それじゃ、ミスリン達を先に逃がすことも出来ないじゃないか! もしかしてそれをバルログが? 


 そうか……どうやら俺達は、この火山内に閉じ込められた訳だ。


「ワナ……カカッタ。エサ、ニガサナイ」


「そうかあの時……俺達がココに入った時に気付いて!?」


 中に誘い込むため、あの時わざと気付かない振りをしたのか?


 しかし脱出するだけなら、無銘でその大岩を斬ることも可能だろう。

 ただ、戦闘しながらは流石に……。


「逃げ場が無いスラよ! 大丈夫スラか!?」


 どちらにしても、今は目の前の化け物を力づくでねじ伏せるしか無いみたいだ。


「タノシミ……タノシミタノシミ」


「……ミスリン良かったな。会話はお前の方が上手いみたいだぞ?」


「そんな冗談言ってる場合スラか!? 人間……本当に一人で行くスラか?」


 俺は肩の上のミスリンを「大丈夫、俺にはミコって言う頼りになる相棒がいるからな」っと、仲間の元へと逃がした。


「それにどうせ、念話で頭の中を覗いてたんだろ? さっきも言ったけど、俺を信じろって」


 大丈夫だ……。確かに強いけど、レクスバジリスク程の驚異は感じられない。

 それに俺には、帰らなければならない場所があるんだ!!


「力動眼──対象はバルログ、お前だ!」


 スキルを発動後、抜刀の構えを取りながらも縮地で飛び出した!


 一瞬で奴との距離は詰り、俺は鞘から無銘を引き抜く。

 そして対するバルログも、上段から力任せの一撃を放った──。


「──遅い!!」


 抜刀の一閃とバルログの振り下ろしかけの大剣とが交わる。

 

「──グギャァァァァ!! イタイイタイ!?」

 

 バルログから鼓膜が破れそうな程の悲鳴が上がった。

 無銘の刃に触れたバルログの大剣は切断され千切れ飛んでいく。


 そして無銘が両断した大剣の断面からは、しばらくし赤い鮮血が舞った。


 なっ──あの剣、体の一部なのかよ!?


 人間で言うところの手を切られたのだ、バルログが痛がるのは無理もない……無理もないのだが──。


「くそ、なんてやりづらい……!」


 目の前で声を上げ、痛がられる。

 それがこんなにもやりづらいとは……。

 

 力動眼越しに見る、バルログの体内の魔力の流れが腕に集中する。

 すると切られた部分は、自身の魔力を消費しつつも、みるみるうちに再生して行くのだ。


 悪夢の様だ、あの断末魔にも似た悲鳴を何度聞かされるんだ?


 さっさと恐怖し逃げてくれ……心の底からそう思った時だった。


「──腹部に魔力が集中している……? ヤバい!」


 俺は慌てて回避行動に移った。

 バルログの魔力は、腹部から胸、胸から喉元へと移り行く──そして、俺が居た場所は一面、口から放たれた炎により、火の海へと変わったのだ……。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る