第340話 バルログ戦3

「あ、危なかった……力動眼と、ティアから事前情報を聞いてなかったら、今頃まるコゲだ」


 現にあの一瞬で地面に焦げ跡が付いている、やばいな……相当な熱量だぞ。


 まるで火炎放射器だ……射程は最大で十メートル程か。

 しかし予備動作は分かった、力動眼さえあれば、何とか回避する事が出来そうだ。


「ただ、あんなのに焼かれたらと思うとゾッとするけどな──」


 俺も強くなってるとは言え人の身。

 炎のブレスに関わらず、奴の攻撃……かする事も許されない。


「イタカッタ……ニクイ……コロスコロス!」


 ブレスで更に魔力を消費したようだ……それでもまだ、身体中を脈打つように色濃く流れてる。


「それに、随分とお怒りの様だ……」


 残り火が口から漏れてるのか?

 牙を剥き出しにして「グルルルルゥ」と、唸り声を上げている。


「コロス──シネ!!」

 

「死ぬつもりは無い! 守る為に──抜く!!」

 

 その後も俺は、何度も斬り、その度にバルログは幾度となく叫び声を上げる。


 奴の大振りを避けては斬りつけ、腹部に魔力の反応を見たら退く。

 単調な行動の繰り返しだった──。


「凄いスラ……人間、アイツと互角。いや、それ以上スラ」


 端から見ても、そう映っているのだろう……しかし──。


「実力差は分かったろ、退け!! 命を落とすぞ!?」


 油断は許さない状況だが、確かに今の俺なら負ける気はしない。


 なのに──攻めきれない!?


『カナデらしくないかな、もっと攻めるカナ!』


 分かってる、分かってるけど……。


 相手の強さの問題じゃない……俺に迷いがある?

 言葉を話し、知性があるだけじゃないか、今までの魔物となにも変わらないだろ!?

 

 ……でも、別に命を奪わずとも奴も随分魔力を消費している。

 深手を追わせれば、そう何度も再生する事もないか? 動けなくさえすれば──!


 バルログは怒り任せに、右手の剣を振り上げた。

 地面を抉る巨大な音を上げた攻撃を、俺は危なげ無く後方に回避した──。


 今までと非にならないほどの大振りだ! 隙だらけだ、チャンス!

 ここで、回復に回す分の魔力をすべて刈り取って……。


『──カナデ、避けるカナ!?』


 何を言って? 今の攻撃も、危なげ無く避けた…………なっ!?


 バルログだけを鮮明に映す視野、その中にうっすらと白く大岩の輪郭が見え、それはすぐ目の前まで来ていたのだ。


「避けきれ……ガッッ!?」


『──カナデ!?』


「──人間!?」


 偶然か? 対象以外が見えづらくなる、力動眼の弱点を……!?


 額に激痛が走った──それでも、薄れる意識をなんと保つ……。

 力動眼の視界が元の物へと戻る。


 今の好機と見たのだろう、バルログはドシドシっと、俺との距離を詰めていた。


 しまった、頭を打ったせいか、足が動かない!?

 それどころか奴が二重に見え、手もしびれて……。


 俺が動けなくなったのを見ていたのだろう、ミスリンが俺達の間に割って入ってきたのだ。


「ミスリン……無理だ、下がれ……」


 このままじゃ、さっきの二の舞だ!

 動けよ俺の体! 自分の不甲斐なさで、仲間を危険な目に遭わせるのかよ!?


 ミスリンはこちらを見て微笑むと、大きな声で雄叫びを上げた。


「皆、僕も怖いから、怖いのは分かるスラ! ただ今だけは、我らが友のために力を貸して欲しいスラ!!」


 その声を聞き、俺の目の前にはミスリルスライムが次々と集まっていく。

 

「嘘……だろ……?」


 彼等は折り重なりバリケードを築くと、その体を一体化し、巨大な一匹のミスリルスライムへと、姿を変えたのだった──。

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