第338話 バルログ戦
「ここに入る時にも奴を見たけど……立ってる姿は圧巻の一言だな……」
まるでバルログが一歩、また一歩と踏み出すたびに地面が揺れているかのようだ。
明らかにこっちを真っ直ぐ見据え、ゆっくりと近づいてきている──。
さて、どうするか……隠れる所などないぞ?
なるべく戦いたくはないが、しかしそうは言ってられないだろう。
どちらにしても、距離のあるうちに情報収集をしておこう──!
「──鑑定!」
鑑定眼が、バルログの身体能力を見透かす……。
ステータスはレクスバジリスク並み……もしくはそれ以上の強さか。
ただ攻撃に偏った能力値だ。代わりに素早さはさほどでもないな、だからミスリルスライム達を閉じ込めて捕まえる必要があったのか……。
作戦と言えるほどでもないが、俺が奴の気を引いて、その間にミスリルスライム達を逃がすか?
それが一番、堅実な手段ではあるよな……。
「──って、ミスリン!?」
ミスリンは突如、俺の肩から飛び出すと一目散にこちらに向かい歩くバルログに駆けていく。──もしかして、念話で俺がしようとしていたことを読まれたか!?
「まて、無謀だ! 戻ってこい!!」
「──あの穴を超えた以上、人間は約束を守ったスラ! だから危険な役は僕に任せるスラ!!」
止める声も聞かず、自分の言いたい事だけを叫ぶミスリン。──ったく、あの体でどうやったらあんな速度が出せるんだよ!
俺は、自らを犠牲にバルログに立ち向かおうとするミスリンを追いかけるものの、咄嗟の事で止めにはいるのが遅れてしまった。
「約束はお前の仲間達を助ける事だ、まだ済んでない!!」
「それならなおさら僕が囮になるスラ! 皆を頼むスラよ!!」
聞く耳持たないってか?
あんな巨体の攻撃を受けてみろ、例えミスリルで出来た肉体でも、きっとただじゃすまないぞ!?
「こっちスラ! お前の相手は僕スラよ!?」
逃げる自信があるのだろう、バルログの目の前に、堂々と立ち塞がるミスリン。
しかしバルログは、そんなミスリンを素通りして俺達に近づいて来たのだ。
「──こっちを向けスラ! 僕の友達に手出しはさせないスラ!」
「ば、馬鹿! 不用意に飛び込む奴があるか!?」
あろうことか、ミスリンは囮をまっとうするため、自分に興味を示さないバルログに飛びかかったのだ──それが奴の狙いとも知らず。
バルログは、初めから飛び出してくるのを待っていたかの様に、体当たりを左手で払いのけるように叩き落す、その勢いで地面に転がるミスリンに、右手の大剣を振るった──。
「ま~にあえ──帯刀流剣術 鞘鳴り!!」
俺は全速力で、バルログが振るった大剣の側面を押し退ける様に鞘を押し付けた。
「くっ──重すぎる!?」
瞬く間の攻防──追撃の一撃どころか、何とか少しの軌道を変える事で精一杯だった。
しかしそれだけで、上出来な結果と言えよう……ミスリンを襲う一撃を、なんとか逸らす事に成功したのだから。
バルログが振った大剣はめり込み、硬い地表を打ち砕く──。
「に……人間!?」
「良かった……なんとか間に合った」
俺はミスリンを抱きかかえ、攻撃が空振りに終わったバルログから距離を取る。
追撃を予測していたが、バルログにその動きは無かった……。
余程恐ろしかったのだろう、金属で出来たミスリンの体は小刻みに震え、息を荒げていた……。
褒めれたおこないではないが、俺達皆を守ろうとした心意気……無事に帰ったらゲンコツで勘弁してやる。
「だからもう、いい子にしてろよ? 俺を信じろ……」
地面から大剣を引き抜いたバルログがこちらに向かい再び歩き出した。
赤い目を光らせ、巨大な口が笑みを浮かべる……そして鋭い牙を見せ、涎を垂らしながら──
「──ツヨイ……キサ……マ。マリョ……ク、ウマ……ソウ」っと、声を上げたのだった……。
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