第337話 友情
「ほいっ」
「ピギィー」
「ほいほい!」
「「ピギィー!」」
うむ、俺の見立ては間違ってなかった。
こいつら──実に見事な飛びっぷりだ。
「──に、に、に、人間、一体何をやってるスラか!?」
ミスリンが顔を引きつらせながらも、仲間になりたそうにこちらを見ている。
「おほん、見てわからないか? 穴の反対側に、お前の仲間達を投げてんだよ」
俺の手により投げられるミスリルスライムが、次々と放物線を描き飛んで行く。
この行為に、当然少なからず心は痛む。
しかし、バルログが何時起きるか分からない以上、今は余り時間をかけられないのだ。
「それは見たら分かるスラ! 何で投げてるのかを聞いてるスラよ!!」
「いや、結構数が居るだろ? 穴の中を一回一回往復してると、それだけで時間が取られる。ほら、この方法なら次々と向こうに送れるぞ」
俺は、間髪入れずに次々とほかった。
迅速、確実、安全に運ぶには一番効率的な手段だと自負している。
ミスリルスライム達は、次々と手のひらに乗ってくれるので投げるだけ──迅速!
反対側は広々としてるので、どんなノーコンでもミスは無い──確実!
何よりこいつ等は堅い。
多少飛んで、着地に失敗してもビクともしない──安全!
誰がなんと言おうが、死角のない移動手段なのだ。
「でもそれって、人道的にどうスラか……」
魔物に人道を説かれた!?
……そもそもこの世界にもあるのな、人道。
「言っても、ミスか1ダメージだろ?」
「──何いってるか意味が分からないスラよ!?」
ごもっともだ。
「まぁ怒るなって、バルログに聞こえるだろ? それに、お前の仲間は結構乗り気だぞ?」
俺の後ろには、ずらっと二列縦隊でお行儀よく順番待ちをするミスリルスライム達。
その誰もが、自らの意思で次々と俺の掌の上に乗って来るのだ。
「ス……スラァ……」
気持ちは分かる。気持ちは分かるけど、この光景を見たらぐうの音も出ないよな?
ってことで、俺は引き続きミスリルスライム達の救助活動を続けることにした──。
◇
「──よし、皆向こうに行ったな!」
それにしても一苦労だった。全部で何匹投げたんだ?
四十を超え始めたぐらいから数えるのを止めたぞ……よくあの住処にこれだけの数が居たな。
それにスライムって、かなり大きさに個体差があったんだ……いらぬ豆知識が増えてしまった。
「よし、後はミスリンだけだ。ほら手に乗れ、投げてやるから」
「──最後なら乗っけて運んで欲しいスラよ! わざわざ投げる事無いスラ」
俺は「バレたか」っと笑って見せる。
実のところ、さっき他のミスリルスライム達に頭を下げた辺りから、時折ミスリンが俺の事を心配そうに覗きこんで居ることを察していた。
堅苦しくなるのが嫌なので、おどけて見せていた訳だが……。
「人間……」
「何だ、まだ文句があるのか? ほら早く行くぞ? 皆待ってるから」
俺が差し出す手を、ミスリンがじっと見つめる。
そして、涙を溜めたつぶらな瞳で俺を見上げた。
「さっきの……火傷は大丈夫スラか?」
「……あぁ、大丈夫だよ。ポーションを飲んだから、見ての通り火傷ひとつ残ってない」
……やはり気にしてたか?
俺が勝手にやったんだし、負い目を感じる必要なんて何だが……律儀なやつめ。
「ほら行くぞ?」
ミスリンを持ち上げ、肩へと乗せた。
すると固く、暖かい体を俺の頬に擦り付けてくる……。
「ありがとうスラ。凄く嬉しかったスラ……」
照れ臭いが、こんなのも悪くはないな。
念話など無くとも、気持ちが手に取るように分かる気がした。
ミスリンが落ちないように気を払い、手で押さえ俺は飛んだ──。
「さぁ、行くぞ! お前たちを自由にしてやる!」
穴を越えた俺は、ミスリルスライムを連れ火山の外に向かおうとした時だ。
「──ピ、ピギィー!?」
地響きのような音にいち早く気づいたスライムが、怯え、叫び声が上がる。
出口の方から音か……言うまでもない──奴だ!!
「ったく……この世界に来て、本当予定通り事が進んだことがないな……」
禍々しくも、巨大な影が姿を表す。
先程まで寝ていたバルログは通路から顔出し、
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