第332話 山の嵐

 あれからしばらく歩いていると、草木のある道を抜け、付近は両脇を、岩盤で出来た崖に塞がれていた……。

 俺達はいつしか、偉大な大自然により通り道を制限されていたのだ。


 ミスリンの案内で、火山のふもとまで辿り着いたのは良いのだが……。


「しまったスラね……運が悪いことに、あいつらに道を塞がれてしまってるスラ」


 あいつら? あれはどう見ても、アレが正解ではないだろうか。


「なぁ、なんでこんな所に剣山の山があるんだ……?」


 目の前には、崖と崖の間を埋めるかのよう、無数の巨大な針の山が行く手を遮っていたのだ。


「あれは剣山ってのじゃ無いスラ。オオヤマアラシって魔物スラよ」


 あの針が……ヤマアラシ?


「それって、ハリネズミみたいな奴か?」


 テレビや動物園で見たことがある。

 でも、目の前の生き物は少し違うような……特に大きさが!!


「人間の言うハリネズミとは別スラ。あいつらもこの島に居るスラけど、こいつらの方がよっぽど好戦的スラ。無理やり起こすと、怒って追っかけて来るスラよ」


 うわぁ~めんどくさそうな臭いがプンプンするぞ?

 しかも、なだらかとは言え向こうは斜の上。

 もし逃げ道の無いここで、勢いをつけて転がってきたら……考えたくもない。


「じゃぁ、別のルートで行くか?」


「その方が良いスラ。僕は固いから平気スラけど、多分人間は刺されたら痛いスラ」


「いや、あれに刺されたら流石に痛いですまないだろ……念のために──鑑定!」


 目の前の魔物をよく観察する……。

 鑑定眼で見ても相手の能力は然程でもない。

 だからこそ、自らの身を守るためのあのように進化して……。


 外見的特徴は、一匹辺りの全長が三メートル越え、針だけでも二メートル半程。

 刺されば場合によっては死ぬよな~うん。


 これもまた、ステータスには見れない、一種の力な訳だ。


「さ、大回りをしよう。急がば回れってことわざも……ってこっちでは馴染みが無いか?」


 わざわざ危険を冒す必要はないからな。

 この後、大きなイベントも待っているわけだし……ここで疲弊する必要などない。


 しかしだ。

 そんな俺の思いと裏腹に、腰の辺りがモゾモゾとした感覚と共に「よいしょ、よいしょ」っと、ミコの可愛らし掛け声が聞こえてきたのだ。


 そして携帯食料の一部を抱え、ふわふわとオオヤマアラシの方に飛んで──って!?


「──ちょ、ミコ!? 何をして……むぐ!?」

 

「大きな声を出さないでスラ、あいつらが起きちゃうスラよ!?」


 ミスリンは体を器用に広げ、はぐれメタ……はぐれミスリンのような形状になり俺の口を塞ぐ。

 当然その間にもミコの奴は、意気揚々よオオヤマアラシに向かい飛んでいくのだ。


 そして彼女は、不意に振り向くと──。


「大丈夫ダシ、交渉はまかせるカナ!! ボクのマブダチは鍛治場荒しダシ、ヤマアラシなんて、ちょちょいのちょいカナ!!」


 俺は関係ないだろ!?

 ってそうじゃない、このアンポンタン! 戻ってこい!!


 しかし当然、その願いはかなわない。

 ミコの奴は、どんどんとオオヤマアラシの方に向かっていくのであった……。


 

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