第331 心の距離
生まれて初めて魔物をを肩に乗せ、俺達は他のミスリルスライム救出に向かっている。
ミスリンの奴、金属の質感に相反して、これがまた意外と軽い、ミスリルと呼ばれる金属の特性だろうか、驚きだ。
例えは難しいが、水が詰まった水風船……っといった感覚だろうか? 投げたら良く飛びそうだ。
「なぁ、そう言えばさっき、バルログに退路を立たれたって言ってただろ? なのに、なんでミスリンは一匹でここにいるんだ?」
退路を断たれたと言っていたが、ミスリンがここにいるってことは何かしらの手段があったのだろう。
もしかしたら、それが救出のヒントになるかもしれないと思ったのだ。
「……秘密スラ」
「──何でだよ」
なんだよ、人が真面目に考えているのに。
普通するか? 家族を助ける協力者に、隠し事なんて。
「聞いても、怒らないスラか?」
「なんだよ、怒るわけないだろ? もしかして、仲間を囮にでもしたのか? 自慢じゃないが、俺も大概だから安心しろ」
実際、危険な戦闘で女の子に守ってもらってばかりだったからな。
そう言う心苦しい気持ちは良く分かる、時折視線が凄い厳しいもんな。
肩の上で、横目でチラチラと俺を見ながら「そうスラか?」っと、少しだけ心を許した様子を見せる。
「いいから言っちまえよ、隠さず吐き出す方が楽だって」
魔物とだって、話が通じれば仲良くなれる。心の距離も、すぐに近づくはずだ。
現にこの言葉が決め手になったのだろうか、ミスリンは覚悟を決めたようだった──。
「僕らの住んでいた所に、地面から蒸気みたいな物が飛び出している小さな穴があったスラ」
間欠泉やガスか何かが漏れ出しているのだろう。
火山付近なら別に驚く事でもないが、それが何に関係するんだろうか?
「それで?」
「空を見たら大きな何かが飛んでて、見知らぬ鳥が飛んでたと思ったスラ。でもそれは、よく見ると人間だったスラよ。あの時は運命を感じたスラね!」
なるほど、俺達が火山の上を飛んでいた時に下にはこいつらが居たのか……。
「……それで?」
話を聞いていて、何故か嫌な予感しかしない。
薄々気付いてしまったが……いや、でもそんな事があるはずがないじゃないか。
「そして僕は、その吹き出し口に入って思いっきり踏ん張ったスラ! サイズがピッタリだったスラね。僕の為に自然が作った、運命の悪戯だったのかも知れないスラァ」
「…………それで?」
「ぶっ飛んだ先で、人間の乗ってる乗り物を壊したスラ……」
「…………」
絶句だった。
つまり、ハンググライダーに穴を開けた謎の飛行物体は、飛んできたミスリンだってことか?
確かにそれなら、地面に埋まっていた不可解なコイツの行動も理解できる。
出来るのだが──ってことはなんだ? 俺は今から助けようとしているコイツに、見事撃ち落とされたって事なのか!?
「いやぁ~。まさか偶然にも貫通するとは思わなかったスラね。ゴメンスラ」
「──あの時の犯人はお前だったか!? マジで死ぬかと思ったんだぞ!!」
「だからゴメンスラって!? わざとじゃないスラ!! 怒らないって言ったスラなのに……」
これが怒れずにいられるか──っとでも言いたいが、確かに「怒るわけ無いだろ?」っと、言ってしまっている。
……男に二言は無い、嘘は粋じゃないからな……。
「……分かった、約束だから怒らない。ただ少しばかり距離を置かせてもらおうか」
俺は肩から、ミスリンを払いのけた。
地面に転がったミスリンは「プルプル。僕、悪いスライムじゃ無いスラ!?」っとピョンピョン跳ねながら、着いてくる。
残念ながら、しばらくの間は心の距離は開きっぱなしになりそうだ。
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