第330 はぐれ事情2
「家族……っか。そんなの聞かされたら、放って置くわけにもいかないだろ?」
「人間……」
魔物にも、涙を流す奴がいるんだな。
ミスリルスライムは体を小刻みに振り、瞳に輝く滴を飛ばす。
「なんだよ、辛気臭いな。そうだ、それで結局おまえの事をなんて呼べばいいんだ?」
協力することにしたんだ。
総称名で呼び会うのは粋じゃないだろ?
「さっきも言ったけど名前は無いスラ。人間の間では、僕らはならび順に種族名の後にアルファベットをあてがわれるのが、お約束らしいスラ……」
……ツッコまない、ツッコまないからな?
ここでもしツッコミを入れようものなら、間違いなく会話が横道にそれる。
ってか、嘘か本当か知らないけど、妙に知ってるゲームに酷似……いや、考えすぎだ。
「そうか、じゃぁ不便だから俺がつけるか? そうだな……ミスぼう、なんてどうだ?」
「──カナデセンス無いかな! ボクは
おう、食う気じゃないよな。
ミスぼう、そんなおかしかったか? 俺の中じゃ、妙にしっくり来たんだが……。
「……ボクの事はミスリンって読んで欲しいスラ。まさか、自分で付けることになるなんてスラァ……」
俺よりセンスがいいじゃないか……。まぁいいや、名前も決まった事だ──。
「じゃぁ、ミスリン。さっきの仲間の危機ってのを、具体的に聞かせてくれよ」
「分かったスラ。説明するにまず、僕達の住んでいる場所を説明するスラよ」
ミスリンは体を動かし、火山を見つめた……。
もしかして、住みかって──。
「あの山の中が、住みかスラ。環境が悪くても問題ない僕らにとって、あそこは襲ってくる者もいなく、楽園だったスラァ」
やっぱりか……この島で一番近づきたく無い場所じゃないか。
「皆は今、奴に退路を塞がれ逃げられないスラ。時折やって来ては僕達を食べていく……おぞましいスラァ」
「その奴って……もしかして、バルログか?」
「──奴を知ってるうえでこの島に来たスラか!? なら人間、何とか奴を倒して仲間達を救ってはくれないかスラ!」
なるほど、ミスリンの頼みは理解できた。
ただそれは、意にそぐわない内容なんだよな?
「──断る!」
例え報酬でミスリルをチラつかせてもダメだ。
他の命を奪っての交換条件で手にいれたミスリルなど、きっと誰も喜ばないからな。
「そう……スラ。あんな化け物、相手にしないのが一番賢いスラね」
「あぁ、その通りだ」
確かに偏食家の外敵が居なくなれば、彼等の今後の人生は安泰だろう。
気持ちは分かるが、俺からしても命あっての物種だしな。
「すまなかったスラ、自分で何とかするべきスラね。話を聞いてくれて悪いスラけど、僕のミスリルはあげれないスラ。でも島を探せば落ちてるかもしれないスラァ。決して錆びず、奴以外に食べられることも無いスラから」
それだけ答えると、ミスリンは俺達から離れるよう砂場に足跡を残す。
あっちは山の方角……やっぱり、家族の為なら、一匹でも行くよな?
「それじゃ人間……達者でスラ」
「──ミスリン、ちょっと待てよ!」
バルログの命を奪い、彼等を助ける。流石にそんなことをする気は無い。
ただ──。
「別に、助けさえすればいいんだろ? 火山の外に、ミスリンの家族を連れて逃げよう! 極力戦うのは無しだ!」
「人間……」
「そうと決まったら案内頼む。泣いてる暇なんて無いぞ?」
「……分かったスラ──!!」
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