第329 はぐれ事情1

 さて、ミスリルは欲しいが今のは見なかった事にしようか?

 これ以上関わると、ろくなことにならない気がする。


 体を半分ほどを埋めたを放置し、俺はその場を後に──。


「──ちょっと待つスラ! 話を聞いて欲しいスラ!!」


 残念だ、呼び止められてしまった。

 それどころか穴から飛び出し、俺に近づいて来るじゃないか。


「なんだ、普通にも話せるのか? ってか手も足も無いのに、よく器用に抜け出したな……」


 元より、本当に放置するつもりはなかったけど、かなり必死に見えるな。

 それだけ、聞いて欲しい話って言うのが重要なのか? あの真剣な目、ただ事ではなさそうだけど。

 

「……一応聞いてやる。これも何かの縁だしな」


「あ、ありがたいスラ!!」


 改めて、俺は魔物と対話することにした。

 まさか、人の形をなしてない生き物とこんな風に話すことが来るとは……。


「もう一度言うスラ。僕はとある事情で、仲間達からはぐれてしまったスラ。だから人間──お前が何に怒ってるかさっきの念話で理解出来たから、ワザワザ次埋めるようの穴を掘るのはやめて欲しいスラ……」


 こ、このミスリルスライム、本当に賢いな!


 次問題発言しようとした時用の、出られなさそ~うな穴を掘っているのを見て、一瞬でその事に気付くとは。


 しかもどうやら「人間に突然襲い掛かられることは何回もあったスラ。でも、埋められて放置とか、今までに味わったことのない屈辱スラ……」っと、精神的に会心の一撃を与える事に成功していたようだ。


「いや、埋めるにしても砂浜に押し付けるよりは、事前に掘った穴に埋めた方が、お前が可愛そうじゃないかなって……」


 グリグリ無理やり押し込むより、上からそっと砂を掛けた方が優しいだろ?


 俺の意見を聞き、ミコは腕組みをし、何度も頷く。──お、ミコ。分かってくれるのか。


「うんうん、悪魔の目にも涙カナ」


「なんだそれ、この世界のことわざか? ってか俺のことじゃないよな。誰が悪魔だよ! 誰が!!」


 何に共感してるんだよ、お前はこっちサイドじゃないのかよ、裏切り者め!

 

 それに、別に悪魔と言われる振る舞いは何もしていないだろ? せいぜい生き埋めにする準備をした程度で……ってあれ、充分か?


「僕は、頼む相手を間違ったかもしれないスラ……。この人間は、あいつより恐ろしいスラァァ」


「なんか言ったか?」


「なっ──何でも無いスラァァ!?」


 叫び声を上げ、一瞬で最も近い木の裏へと距離を取るミスリルスライム。

 可哀想に、そんなに体を震わせて。

 でも何も、そんなに怯えなくても……。


「だ、大事な話だから良く聞いて欲しいスラ。実は仲間のメタル──」


 また言う気か!?

 俺はつい、厳しい視線を浴びせる。


「ミ、ミスリルスライムが、このままだと危機に陥るスラ……」


 うむ、分かればよろしい。

 それにしても「危機」とは、不穏な単語だな。


「なぁ、その危機ってのはどういう意味なんだ?」


 俺の問いかけに、ミスリルスライムが俯く……。

 そして金属の体に冷たい涙が伝うのを、俺は見過ごさなかった。

 

 その後「実は仲間が……僕の家族が、憎き悪魔に捕らえられているスラ」っと声を震わせ、ミスリルスライムは答えたのだ。


 


 

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