第333話 油断大敵

 ヤ、ヤマアラシがこちらに気付いた!? ミコが大声を上げるから!


 何匹かは既に目を開け、俺達を見ている……。

 しまった、今さら止めに入ったら、かえって刺激してしまうかもしれない。


「こうなったら……ミコ、頼むぞ?」


 なんだかんだで、長い付き合いだ。

 知ってるぞ、お前はただの食いしん坊じゃない! やるときはやってくれる奴だって。

 俺だけは、偉大な精霊様だって分かってるから──信じているからな……ミコ!!


「人間……心の声に矛盾を感じるスラ……」


「読むな──念話で人の心を読まないでくれ~!?」


 だぁぁ~自分に言い聞かせたかったのに!

 よく知っているからこそ、この展開であのミコを心から信じられる訳が無いだろ!?

 

 交渉に持ち出したであろう食料も、あんなちょびっとだぞ、絶対出し渋ったろ?

 まったく、あの食いしん坊は!!


 そんな事で怒っている場合じゃない、ミコとオオヤマアラシが接触した……。

 俺が交渉している訳でも無いのに、何故か手に汗握る展開だ。


「人間、あの娘は大丈夫なのかスラ?」


「……分からない。こうなったらもう、神頼みしかないだろ」

 

 俺達の心配を他所に、身ぶり手振りで必死になにかを伝えようとしているみたいだ。


 えっと……少し様子がおかしくないか?

 さっきと比べても、ヤマアラシの針がツンっと、さかだっているような?


 ──ミコが動いた!?


 手見上げに持っていった食料を、目の前に差し出して──パクっと……ってお前が食うんかい!?


 ミコはそれと同時に振り返り「カナデ、助けてカナ!」っと悲鳴を上げる。


 あぁ~もう! やっぱりダメだったか!!


「──ミスリン、肩に乗れ!!」


「乗ったスラ! あの子を助けて、逃げるスラか!?」


「いや、ミコとヤマアラシの距離が近すぎる──助けた勢いのまま、突破する!!」


 ミコとオオヤマアラシに向かい、俺は駆け出した。

 逃げてくるミコに手を伸ばし、抱きかかえる。


「しっかり捕まっていろ──飛ぶぞ!!」


 俺は、斜め前方に全力の跳躍をして、崖で出来た壁に足をかけた。

 そして足をかけた崖をさらに蹴り、三角飛びでオオヤマアラシの軍団を飛び越える──。


「どうだ、俺が本気出せばこんなもんよ!」


「す、凄スラ!? あの大群をひとっ飛びで飛び越すなんてスラ」


 う、上手くいって良かった。

 行き当たりばったりの挑戦で、失敗したらどうしようか、なんて思った──ってなんだよその目は、心を読むなって言っただろ。

 なんなら、もっと不安にさせてやろうか?


 そんなことより……。


「ほら、俺の見事な跳躍を見て、あいつらあきらめてきびすを返すぞ?」


 引いてくれるのか? 良かった、無銘を抜かずに済んで。

 これで、一段落と言った所か。


「人間、油断するなスラ!」


 それってどういう……もしかして──!?


「──他にも伏兵が!?」


「そうじゃないスラ! あいつらはハリネズミ種じゃないスラよ!」


「そ、それがどうしたんだよ?」


 それはさっきも聞いただろ。ハリネズミじゃなくヤマアラシ、だからなんだって……。


「ヤマアラシ種はケツを向けたら本領発揮スラ、つまり──走って来るスラァ!!」


 狭き通路一杯に、お尻を向け並ぶヤマアラシ。

 それが一斉に針を構え、凄い速度で後ろ向きに走ってきたのだった……。


「──それを早く言えぇぇぇ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る