第325話 ツーカー?

 村を出て、何日ほど立ったのだろうか?

 辺りが間だ薄暗い早朝、目的地のミスリルスライムの島に向け、俺は走っていた。


「──カナデ! ボク、カナデが昨日話してたハンバーグが食べたいかな!」


 おかしい、何故こんなことになった。


 昨晩焚き火の火をミコと囲み、お互いの思い出を語り合っていたはずが、いつしか食べ物の話へ変わっており、それを聞いたミコのおねだりが度々行われていたのだ。


 そして現在も、この調子である。


「だから何度も言ってるだろ? 無事に事が済んで村に帰ってからだって‼️」


 早朝、まだ日が昇り始めの青い空に、凛とした冷たい風。

 昨晩の失敗を修正すべく、話題をクールに変えて見せる。


「それにしても、いつからだろうな? こんなふうに自ら危険におもむくなんて、この世界に来たばかりの俺じゃ考えもしなかったな……」


 哀愁漂う表情で、俺は呟いた。

 この雰囲気。流石のミコでも、食の話題から離れるだろう……。


「カナデ! ボク、カナデが昨日話してたスパゲッティーが食べたいかな!」


「──って恰好付かないだろ! 少しで良いから雰囲気を察してくれよ……」


 ダメだった。

 どうしてもこの子、頭の中はご飯で一杯らしい。


「カナデカナデ!」


「──今度はなんだよ!」


 どうせあれだろ? 昨晩の話の内容を考えると、きっと「お寿司ってのを食べたいカナ!」だ、何でもお見通し……。


「村を出た時の覚悟はどうしたのカナ。今のカナデは昔とは違うシ、過去より未来を見るべきカナ!」


 してやられた、こいつ……まさかこのタイミングで真面目な話だと?


「ミコ、今のはもう一回ボケるところ……いや、何でもない。それより見えたぞ、あれが目的の山じゃないか?」


 目の前には、錆びた鉄のような色をした巨大な岩の山が見えてくる。

 まるで、エアーズロック見たいな山だ。


 俺達は近くによって眺めてみる……。

 うん、急斜面だがそれでも何とか登れそうだ。

 

 その岩山に、足を踏み入れようとした時だ──。


「カナデ、さっき言い忘れたシ。ボクも一緒に頑張るカナ。だから弟をお願いだシ……」


「ミコ……あぁ、頼りにしてるからな!? だからミコも俺を信じてくれ」


 困難な山道だろうと、ミコが傍にいればきっと乗り越える事が出来る。

 険しい勾配の登山だろうと、笑い合いながら登ると不思議と苦にはならなかった──。


「ん~! 山頂についたぞ」


 山頂からは周囲が一望できた。


 地図で言うところの東側は海が広がり、近場には小さな切り立つ山が無数に見える。

 まるでそれが遠目に見える島への海路を遮っているようだ。


「あれが……ミスリルスライムの島」


 島の中央付近には、富士山のようななだらかな形状の山が見える。

 

 あの島の何処かに、目的のミスリルスライムが……。


「さて、早速組み立てるか!」


 気合いを入れ、マジックバックから畳まれているハンググライダーを取り出した。


 テントよりは、少しばかり大きい……っと言うよりは長いか?


 フレームやセイルと呼ばれる部品が、何かの皮で出来ているだろう入れ物に納められている。


 そのフレームの中でも、手で掴む部分、コントロールバーを最初に三角に組み上げていく。

 それをひっくり返し、コントロールバー軸に全体を斜め立て掛けた。


「次は両翼を手で広げ、ワイヤーを張るんだな?」


 何度もルームと練習した組み立てを、念のために説明書とにらめっこしながら次々と組つける。


 外付けのフレームを付け足し、各所固定、確認が終われば……。


「完成だ!」


 正味一時間かからなかった位か? まったく、これで空が飛べるんだから見事なものだよ。


 今から飛んでいけば、太陽が真上に上がる頃には現地につけそうだ。


「よしミコ、飛ぶぞ! 無銘に入ってくれ──」


 ハンググライダーを飛ばせる準備を完了する。

 ミコが無銘に入るのを確認すると、俺は勢いをつけ駆け出した。

 

 地面を踏みしめ滑走すると、体は浮き上がり俺達は晴天の空へと飛びあがったのだった──。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る