第324話 二人っきり

 地球の常識では考えられなかった……まさか、こんな馬鹿げた早さで走ることが出来るなんてな。


 草木の少ない平野を、土煙を上げ俺は駆ける。

 今ならオリンピック選手や、それこそ創作物の走れメ◯スよりも早く走れるな……。


 って、そんなことを考えている場合ではなかった。


「ミコ、無心だ!」


『分かったカナ!』


 一時も……片時ですら無駄に出来ない。


 ただ走り続けるのも暇……勿体ないので、俺は眠くならない程度の魔力を使ってもらい、ミコの特訓に当てているのだ。


 前回の戦いもそうだったが、気を抜いてると簡単に命を落としかねない。

 生き残る為には、唯一無二の、俺ができる最高の技を完成を急がねば──。


 体が一瞬透過するものの、直ぐ様俺は丸見えとなる……。

 ただ、魔力を持っていかれた倦怠感だけ、残った。


「くっ──効果が消えた……のか?」


 疲れにくくなったとはいえ、魔力を持っていかれながらは話が違う。

 疲れた、凄く疲れた!! でも到着が遅くなり、村に帰るのが遅ければ遅いほど皆に心配がかかる……足は止められない!


『あぁ~もう! カナデ走るの早すぎるかな、ついて行けないシ! 元々間に合わないのに、なんでさらに速くなっちゃうカナ!』


「そ、そんなこと言っても仕方ないだろ?」


 走りながらミコから苦情を受けていると、いつしか空はオレンジ色に染まっていた。

 魔力もずいぶん減ったし、ミコも若干ご立腹、野宿をするには丁度いい頃合いか?

 

 俺は周囲を見渡し、火を起こしても大丈夫そうな地肌が出ている場所で足を止める。


「今日は、この辺りで休むか? ミコも特訓ばっかで疲れたろ」


 待ってました! っと言わんばかりに無銘から飛び出し「お腹ペッタンこカナ!」っと食事を催促するミコ。


 そんな当たり前になった関係が、妙に嬉しくなり苦笑いを浮かべた。

 もはや、深い仲と言ってもおかしくは無い間柄……一人は寂しかったからな。


「はいはい」


 背中を押されるがまま、俺は自分との食事を準備することにした。


◇ ◇


「──なぁミコ。バルログは強敵らしいし、無心はもう少し何とかならないか?」


 ミコと二人っきりで焚き火を囲い、作り立てのキャンプ飯を食べ終わる。

 俺はその最中も、何とか無心を目的の形にするための方法を模索しているのだが……。


「う~ん、もっと沢山練習すれば分からないカナ。もしくは凄く一杯魔力を使うか、カナデが毎回同じ動きをしてくれれば少しは違うと思うシ……」


「流石に戦闘中には……かと言って、前みたいにゆっくり動いてたら姿は見えないとしても何があるか分からないし」


 ただ、ゆっくり動いても姿が見えない以上【無心】は最強の技だ、間違いないと断言しよう。

 ただそれは、情報のほとんどを視覚を頼る人間みたいな生物だけの話だ。


 嗅覚が強い獣や、その他の感覚器官が鋭い相手には効果が弱いからな……。


 ──そうだ!?


「ミコ、耳を貸せ!」


 思い付いた案を、ミコに伝えようとした時だった。

 何故か露骨に、俺に嫌そうな顔を向けたのだ。──な、なんだよその顔は? 


「カナデ……いくらボクでも耳は取れないシ。そもそも、取れても簡単に貸しちゃだめカナ!」


 このとんでも精霊は、いったい何を言ってるのだろうか?

 まさかの回答が妙にミコらしい勘違いで、つい笑い声を上げてしまう。


 もちろん、そんな俺の顔を覗きこみ、不思議そうにするミコ。


「違うよ、耳を貸してくれってのはな──?」


 考えてみたら、これだけ長いこと一緒にいても、こんな風にずっと二人だけってほとんど経験が無かったからな。


 良い機会だ、折角だし無心の事以外も色々話そうか? ミコの知らない、俺が見てきた世界の話でも。


 色々聞かせてもらおうか? ミコしか知らない、彼女が見てきた世界を。


 

 

 

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