第326話 緊急事態

『カナデカナデ! 凄いし、凄く高く飛んでるし!』


 大陸側から飛び出した俺達は、風に乗り優雅に空を舞っている。

 

 ミコが興奮するのも仕方がない……現在の高度は、前回経験したものより遥か高いのだから……。


 真っ昼間なのに、冷たい風が骨身に染みる。

 この調子なら、目標の島には難なく着けそうだ。

 むしろ、飛びすぎて変なところに着陸しないように気をつけないとな。


「しかしこの島、遠目に見ても凄く綺麗だ……。ここにあの、ミスリルスライムが居るんだよな?」


 島は、浅瀬や細かい山々に囲まれているものの、それが波を寄せ付けぬ防波堤変りになっているのだろうか?

 ほとんど揺らぎの無い、透明なエメラルドグリーンの海とシルクの様な白い砂浜が、まるでリゾート地を連想させた。


 この寒さの中、島には緑が生い茂る。

 島の手前側にある山は、小さく緩やかな物に写った。


 操作は、前回の命懸けのフライトでコツは掴めている。

 コントロールバーを引き、体を引き寄せると加速。逆に押して離すと減速する。


 左右に曲がるのも、重心をそちら側に寄せるだけで思ったより用意に出来る。


「それにしても、ミスリルスライム島にある山は少しばかり低いな……」


 帰りのハンググライダーの飛距離が足りるだろうか?

 まぁ後のことはあと考えよう。

 折角飛んでるんだ。見えないにしろ、上空からそれらしい魔物を探し……。


 そんな事を考えながら、島の上空に入った時だ──。


「なんだ、急に温かく!?」


 それだけじゃない……下の方から、暖かい空気に押し上げられる感じだ。


「な、何だ今の、異世界ならではの現象なのか?」


 はっきりとした原因は分からない、ただ間違いなく俺達の高度は上がっている。


「ハンググライダーって、てっきり滑降だけだと思ってたけど、上昇する事もあるんだな……」


 おかしい。

 高くを飛んでいるはずが、温度は島の中腹に向かう度どんどん上昇しているような……。


 もしかして──!?


 俺は重心を傾け、旋回を始めた──予想が合っていれば……。


「──ってやっぱりか!? この山、火山じゃないか! しかも、中に見える赤いのはマグマ……もしかしなくても活動している!?」


 正直、火山活動の事についてはさっぱり分からないが、山の周囲が燃えた形跡はない。

 よっぽど運が無い以上、噴火は多分しないとは思う。

 

 よっぽど運が無い……大丈夫だよな? 俺。


「ピ……ィーーーー」


 今何か声がしたような?

 俺は周囲を見渡した。もしかしたら、空を飛べる魔物の奇襲かもしれない!


「ミコ、今何か声が聞こえなかったか?」


『風の音が大きくて分からないカナ!』


 空の上はまずいぞ! 俺達より早ければ、逃げ切る事も出来ない!


『カナデ、今何か光ったカナ』


「──どこだ、ミコ!」


『山、山の中だシ!!』


 俺はミコの指示があった方角を見つめる。

 言われてみれば、何かが光ってるような?


 豆粒の様な光だ、それは徐々に徐々に大きくなって……。

 

「こっちに向かってる!? マズイ、避けきれない!!」


 はっきりと見えた光は、まるで銀色の砲弾の様にハンググライダーのセイルを突き抜け、穴を開けた。


 揚力が弱まった空を飛ぶ乗り物の末路は決まっている……そう、つまり。


「──墜落する!?」


 高度が一気に下がっていく。

 重心位置を変え、何とかバランスを取るのだが、かなり速度が出てしまっている。


「くぉ、浜辺までもってくれぇぇぇぇ!」

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