第322話 新アイテム
「なぁルーム。いったいどこまで行くきなんだよ?」
言われるがままルームに着いていくと、最近整備を始めたばかりの、山の幸収穫の為の登山道を登って行く。
標高こそ高くないが、まさかこんなところまで来ることになるとは。
うぅ……寒い。
「もうじきや、ほら見えてきたで」
方峠っと言うべきだろうか? 比較的開けた山肌に到着すると、そこにはなにやら布のような物が見えて……。
「あ、あれがルームの言う──新しいアイテムなのか!?」
なんとそこには、地球にも存在する空を滑降する、ハングライダーに瓜二つの形をした乗り物がロープで丸太に固定されていたのだ。
「ハ、ハンググライダーじゃないか! ルーム、お前がこれを作ったのか!?」
「ハンググライダー? なんやそれ。これはこの前、森ん中でムササビを見て考え付いたアイテムやねん」
ルームは、見るからにドヤァっと聞こえてきそうなほどふんぞり返った。
自分の新発明に、余程自信があるのだろうが──。
「いやなこれ、俺いた世界にも似たような乗り物があったんだよ。助走をつけて、風に乗って飛ぶんだろ?」
「正解や、そうなんか!? 世界初の大発明やと思ったんに……」
肩を落とし、見るからに落ち込んだようすのルーム。──ここは知らない振りをしてた方が良かっただろうか?
「いや落ち込むなって。自分で考えてここまで作るって、十分過ぎるほど凄いぞ!!」
「そう……なんかな?」
「あぁ、断言するよ。凄い!! ルーム、やっぱり天才じゃないか?」
別に、嘘や世辞は一言も言ったつもりはない。
物を生み出し、形にする。それは決して簡単なことでは無いからだ。
地球のハンググライダーも、長い歴史を掛け今の形に至ったはず……それを一人で、天才としか言いようがないだろ。
「実はな? さっき地図を見た時、大陸側にもミスリルスライムの島にも山があったや。だからもしかしたら、行けるんちゃうかなって思うて!」
言われてみれば……あった気がする。
「確かにこれで滑空出来れば、条件次第で横断はできそうだ……」
「──じゃぁ、兄さん。試しに飛んでみぃへん?」
「ん? 試しにって……」
考えても見れば、これは彼女が発明したばかりの道具。
外見が地球にある物と酷似していても、材質や重量のバランスなどで、安全に飛べる保証など何処にもないじゃないのか……?
「重りを乗せた実験は成功しとる、後は人を乗せてどうかを試して無いんや」
「それってつまり……実験台じゃ?」
「ええんやで? うちはシャツで飛んでって貰おうとかまへんし」
──くっ!? ルームの奴、人の足元を見やがって!!
◇ ◇
俺は諦めて、ハンググライダーのハーネスを自身の腰へと取り付けた。
上下左右と、問題個所が無いか見渡す──それにしても、確かに良く考えて作られてるな。
地球でも、経験はしたことないからな……コントロールバーを握る手には、自然と力が入る。
「ほら、準備出来たらはよ行き!」
「分かってるって! 押すなよ? 絶対に押すなよ!?」
空中分解とかしないよな!? それ以前に空を飛んで、しっかりコントロールが出来……。
「──振りやろ? 観念して行ってきや!!」
「ちょっ──押すなって言っただろ!?」
ルームに押され踏ん張りが効かなくなった俺は、風に煽られ開けた山道を下って行く。
一度風を受けた
「と、止まらない──う、浮く!?」
浮遊感を感じ、足が地面に触れている感覚が無くなる。
それに恐怖し、俺はつい目を閉じてしまった。
耳には風を切る音が聞こえる──って事は、落ちてはいない?
『カナデ、目を開けるカナ! ピューだシ、ピューーだシ!!』
ミコの念話を聞き、俺は目を開いた。
「本当に……飛んでるぞ」
全く信じなかった訳じゃないが、まさか本当に飛ぶとはな?
青く澄んだ空、山に森、そして開拓中の村……いや、今や立派な村が、目の前には広がっていた。
外仕事をしている住人が、何人かこちらに気付き手を振っている。
この村の皆は、本当に良くやってくれているな。これならもう、任せっきりでも大丈夫そうだ。
村の全容を見て、少しだけ……ほんの少しだけど肩の荷が降りた、そんな気がしたのだった。
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