第319話 生体鉱物

「なぁルーム、伝説や物語の類いでもいい。鉄より武器に向いている素材を、何か知らないか?」


 伝承などは、誇張表現されることも多いが、多くは何かを元に語り継いでいる。

 もしかしたら、その中から有用な情報を得られるかも……。


「ん~うちが聞いたことあるんは、ミスリル鉱石、アダマス鉱石、ヒヒイロカネが有名やな。百年以上前には、うちらの種族ドワーフは、実際にミスリルをよう使ってたらしいで? おとんが言うてたわ」


 やはりそうか。


 地球では、伝承の中でしか聞いたことのない鉱物がここでは、間違いなく実在している。

 聖剣の製作者であるガイアのおっさんが知っている……もしかしたら、聖剣の材質は──!


「ミスリル──それは何処に!?」


「わ、分からへん……最近じゃ、ごっつ珍しい鉱石やねん。ウチも見た事は無いわ」


「そ……そうか……」


 流石に都合良くは手に入らないか……。

 一応ティアに確認を取ろう、知らなければ、リベラティオに連絡を取ってもらえば良いわけだし、善は急げだ。


「ルーム、付き合ってくれてありがとう。俺はその、ミスリルの情報を集めてみるよ」


 その場を立ち、手に持っていた自らが打った刀を陳列棚に並べる。


 そして自分の家へと、足は赴く──。


 鍛冶場を出ると、汗をかいた体を冷たい風が撫でた。


 うぅ……これは冷えるな、早く戻ろう。


 俺は冷える体を手で擦り、小走りでギルドの入り口に使っている、自宅の勝手口に駆け込んだ。


「ただいま、帰ったよティア」


 勝手口を入った少し先には、今日もティアがカウンター越しに座っていた。

 そんな彼女が「お帰りなさい」っと、俺を迎えてくれる。


 俺は「ただいま」の挨拶の後、彼女に先程のルームとのやり取りを説明をすることにした──。


「──なるほど。カナデ様はその、ミスリル鉱石が欲しくて、私を頼ってきた訳ですね?」


 流石ティアだ、話が早くて助かる。


「あぁ……何か情報があればそれを知りたくてな。ギルド職員のティアなら、もしかして……っと思ってな? それと分からなくても、リベラティオに連絡を取って確認をしてもらいたいんだ」


 ティアが知らなくても、実在している以上きっとリベラティオになら少なからず情報ぐらいはあるだろう。


「そうですか。情報の方でしたら知っておりますが?」


「そうだよな……そんな都合良く知っているわけ──って本当か!? 是非教えて欲しいんだが!!」


「か、構いませんよ? それでは一応、在庫の確認と、あったらそれが頂けるか確認を取りますね」


 ティアは席を立ち、外へと向かう。

 するとしばらくし、また勝手口から戻ってきた。


「お待たせしました、ただいま戻りました」


「──それでどうだった!?」


 俺はつい興奮のあまり、ティアに近づき両腕を掴む。 


「カナデ様、また欲しがりさんが出てますよ? もうしばらくお待ち下さい、直に返事が来ると思いますので」


 そりゃそうだよな……?

 さっき出ていったばかりなのに。


「済まない、先走って……それにしてもティア、良くミスリルの事を知っていたな?」


「はい。あれは私の分野なので、知っている事は何も不思議ではございませんよ?」


「ティアの……分野?」


 彼女は足元のバックから図鑑を取り出し、カウンターの上に広げた。

 そしてページをめくりながらも、いつものように説明を始める。


「そうですね……カナデ様は生体鉱物せいたいこうぶつと言うものを御存じでしょうか?」


「せ、生体鉱物? なんだそれ……」

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