第316話 あっさり
「ただいま~。ティアすまないが、模擬戦の見届人になってくれないか?」
ストーキングキングから模擬戦の挑戦を受けた俺は、ティアに立ち会って貰うため、我が家へと戻る。
調理場の扉を開けると、カウンターのその先で洗い物をしているティアが居た──。
「カ、カナデ様正気ですか!? 一体この男に何をそそののかされたのですか……」
俺が模擬戦を受けたのを余程驚いたのだろう、木製の食器をほっぽり出し、ズカズカとこちらに歩み寄ると、勢いよくカウンターに両手を突く。
「い、いや、このまま放置しても引き下がりそうに無いだろ? 一試合だけでも相手をすれば、満足すると思うんだけど……」
ティアの目元が引きつっているのが分かる。
よっぽどコイツが嫌いなんだな~……。
「や、やるにしても、ソイン様に頼まれれば良いではないじゃないですか……私はなるべく関わりたくありません、
おい、ハッキリ言うのは止めてやってくれ、流石のストーキングキングも泣きそうだ。
まぁ完全に、今までストーキングをして来たコイツの自業自得なんだけど……。
ティアの目の前での模擬戦はコイツの頼みでもある。
何とかして、格好良い所を見せたいのだろう……良い所を見せる協力など、する気はないが。
「まぁ、怒る気持ちも分かるけどさ? この一戦したら真面目に依頼を受けるって言ってるし……村の利益にもなるからさ?」
「終えたら依頼ですか……分かりました。カナデ様がそこまで言うのでしたら仕方ありませんね。それで、ルールの方はどうなさるつもりですか?」
「あぁ……模擬戦闘だからな、一応木剣や木刀を使った一本勝負でいいんじゃないか?」
流石出来るギルド職員ティア……。
依頼を受けると聞いて自ら折れたか。
この開拓村。人が増えたからと言って未だ人手は足りていない。
冒険者が魔物警備などの雑用をしてくれれば、その分村人の手は空き村の発展に大きく関わるのだ。
無理を聞いてもらって、彼女には少しばかり申し訳ないな……。
「ちょっと待ってくれ! 魔法、魔法の使用も許可願いたい!!」
「いや、流石に魔法は危険だろ?」
こいつ、模擬戦で魔法って正気か?
お前の魔法は炎だろ、どれだけ俺が強くなろうが、熱いものは熱いぞ?
「大丈夫だ、火加減は出来る!」
そう言うと、目の前でのマッチ程の火を出して見せる。
確かにそれぐらいなら、大きな火傷にもならないだろうけど……。
「仕方ありませんよ、カナデ様に以前に剣でコテンパンにされてますからね。剣のみでは、勝てる見込みが無いのを理解しているのでしょ」
だから止めてやれって……ストーキングキングが意気消沈してるだろ、かえって断るに断わり難いから……。
「あー……分かったよ、魔法使用ありなんだな? ミコ、行くぞ」
仕方なく折れた俺は、ミコを連れて外へと向かった。
◇ ◇
「じゃぁティア、早速審判を頼むよ」
家の外に出て、ストーキングキングと向かい合う。
観客は審判である、ティアただ一人。
奴には悪いが、二度とこんなことが無いよう、今回は全力を出すつもりだ。
「仕方がありませんね……ではルールは一本勝負。相手に有効打になりえる一撃を与えた方の勝ちとします! 特例として魔法の使用あり。しかし、相手に大きな怪我を与えたものは負けとします!!」
ティアの口から説明後「始め!」っと、勝負の合図がなされた──。
「ハッハッハ! 敵に塩を送ったつもりかもしれんが、その甘さが貴様の命取りだ!? 見よ、我が必殺の……」
模擬戦開始直後、何かを言い始めた。ただそれを、素直に待ってやるつもりはない。
行くぞミコ!?
「縮地からの──無心!」
ストーキングキングの長い台詞の間に、俺は踏み込んだ。
「なっ──何処へ行った!?」
俺を探すよう、辺りを見渡すストーキングキング……しかし無情にも、俺の木刀は奴の首元にあてがわれた──。
「これで終り……っと」
文字通り、一瞬で勝負は決した。
無心を知らぬ二人は、驚きで開いた口が塞がらないようだ。
「しょ、勝負あり! カナデ様の勝ちです!!」
まさかの出来事に、その場に崩れるように膝を着くストーキングキング。
また、つまらぬ者を斬ってしまった……って斬っては無いか。
「き、き、貴様、消えるとは卑怯だぞ」
「何でだよ、これも魔法だぞ?」
消える事自体はズルくないだろ?
突っ込むべきはミコの協力を得たところだ! まぁ、言わないけど。
でも流石に、これだけ圧勝すれば二度と……。
「くっ──紙一重だったか!!」
謎の叫びと共に、地面を殴り付けるストーキングキング。
その様子は、まるで接戦惜しくも負けた男のようだった……。
俺はその姿を見て「何でだよ……」っと、突っ込みを入れ事に。
きっと今後も、似たような問題を持ってくる……そんな予感に見舞われるのだった。
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