第315話 御断り
「えっと──御断りします!」
俺は断った後、手製の箸で魚の身を器用に取り、口へと運ぶ。
気持ちの問題だと思うけど、やっぱり、
日本食を食べるのには箸に限る。
その後も、俺は朝食を次々と口へと運ぶ。
ミコの奴が既に一人前ぐらい食べ終わってるからな、戦争が勃発する前に食べ終えねば。
「き、貴様、普通このタイミングで断るやつがあるか!」
えっ、何? まだいたの?
困ったな、この冒険者しつこいぞ……。
俺は「元はと言えば、ティアの客だろ?」っと言う視線を、目の前の彼女に送った。
すると、彼女は大きなため息の後、冒険者男に向かい口を開く──。
「あのですね。この村に限らずですが、真剣勝負など争い事は、基本的に禁止なのですよ? なんなら、憲兵でも御呼びいたしましょうか」
そうだそうだ、もっと言ってやれ!
ティアにここまで言われても俺を睨み付ける冒険者の男。
この様子じゃ、本当に呼ぶことになりかねないか……それはそれでめんどくさい。
俺は残りの食事を掻き込み、その場で両手を合わせる──よし!!
「ご馳走さま! ティア、悪いが片付けを頼む」
俺は立ち上がり、冒険者の横をすり抜け外へと走って行く。
靴を履いた俺は、一目散に家を飛び出したのだ。
「き、貴様。逃げるやつがいるか!」
まったく、追って来るのかよ……なんて執念だ。
さて、どうしたものか?
俺は辺りを見渡し、走りながらも策をねる。
ティア達が来てから日も随分立ち、建物も増え村の外壁代わりである、柵や堀の拡張も進んでいた。
村内部には川から水車で水も引き、畑に使う用水路、浄化石を用いた下水施設も完備されている。
最近では井戸も堀り終え、近いうちには生活水として利用できる見込みだ。
随分設備は整ってきたものの、残念ながらまだ村の規模は大きいとは言い難い。
この環境下で、流石に冒険者の男を巻いて逃げるのは無理があるか──。
「俺はこの村の村長なの! 忙しいんだよ、お前の相手なんかしてる場合じゃないから!!」
こうなったら、なんとしても説得をしないとな?
冗談抜きに、それなりに仕事があるわけで……。
「──村長なら、この働き者の村人に仕事を任せ、どっしりとしていれば良いだろ!」
あのな? 上に立つものが率先して働かないで──って、この冒険者……今なんて言った?
逃げる足が止まる。そして俺は、冒険者の男にとある疑問を投げ掛けた。
「なぁお前、もしかしてこの村がどんな村か知らずに、ここまでやって来たのか?」
俺が今まで見聞きしてきたこの世界では、大半の者が混血の彼らを、働き者の村人なんて表現はしないはず。
だからふと気になり、目の前の男に確認を取ってみたのだ。
「貴様舐めるなよ。俺様は仮にも冒険者だ、ここは混血達が作る村だろ?……その程度の情報など知り得てるわ!!」
「いや……さっき働き者のって……」
「もしかして差別の事を言っているのか? よく働く者に混血や純血など関係ない、それが事実だろ? 出来る者は労われる、そんなこと当然の権利だ!」
……なんだコイツ、意外と真っ当なことを言うじゃないか。
好きにはなれそうにないが、不思議と憎めない奴だ。
仲間達を働き者と言われた……たったそれだけの事なのに、つい嬉しくなる辺り、俺も単純なのだろう。
「あ~……今さらだけどお前、よく見たらストーキングキングじゃないか……」
「──なんだ、今さら俺様だと気付いたのか!? そう、我が名はストーキング──って違~う!! 貴様、本当は分かっててやってるだろ!」
ったく、ノリの良いやつだ。
少しばかり興が乗った。めんどくさいが、一度手合わせしてしてやるか。
「さっきも言ったが、決闘や真剣勝負は出来ない。ルールだからな──だから、真剣を使わない模擬戦なら相手をしてやるよ」
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