第314話 刀匠のとある朝

 ──刀匠の朝は早い……。


 俺は毎朝の訓練を終え、元気の源となる朝食作りを、ほぼほぼ作り終えた。


 そして現在は、米を蒸らしている所──釜で炊くお米は、炊き上がっても直ぐ蓋を開けてはならない、十分程我慢しよう。


 刀匠のお兄さんとの約束だ。


「ティ~アさん、お久しぶりです!! ず~~っと探して今したよ、こんなところにいたんですね」


 出来る刀匠は、時間を持て余すことはない。

 実は、ドリアードさんから引っ越し祝いで頂いた栗を、数日前から下ごしらえしていたのだ!


「いらっしゃませ、当ギルドへようこそ」


 栗を水に着け、丸一日放置。

 水をしっかりと切り、冷蔵室で寝かしておくこと一週間。

 そして朝一で回収し、一時間程茹で、実はそれもとっくに終えている。


 断じて言おう、暇な訳じゃない!


「いらっしゃいました! 貴女に会うため、遠路はるばるやってきたのです!!」


 そして現在、出来たものを冷水で冷やし、栗の水気を取り、砂糖を混ぜた水を定期的に入れながら、しばらくっているところだ。


 俺ほどの刀匠になると、調理行程も念密に考えられており、煎り終わり程なくして米が炊き上がるはずだ。


「どなたか御存じなく、大変申し訳ありません。当ギルドでは、その様なお声かけは御断りしておりますので、仕事を受ける気になってから出直してきなさい!! っと案内させていただきます」


 よし、天津甘栗完成! おっと、米の蒸らしすぎも良くない。

 ちなみに知られてないことが多いが、電気炊飯器は、水の漬け込み時間、蒸らし時間が考慮されている事がある。


 炊き上がりの合図で、切るようにしゃもじを入れた方が良いのだ!

 まっ、この世界は釜だし関係ないけど。


「それでは、休憩中はいかがですか? 俺、ティアさんためなら何時までも待てる自信がありますよ!」


 良し、両方共に出来た!


 俺は釜の並ぶ砂利の調理場から、すぐ隣の茶の間に料理を運ぶ。

 ご飯、焼き魚、サラダにお吸い物……やはり、朝食はしっかりとらないとな。

 出来立ての甘栗も……よし、の料理が完成っと!


 ルームは後で食べるって言ってたか?

 ミコの奴は……って、いつの間にかもう食べてるし!? じゃぁ、後は……。


「──ティア、朝食が出来たからキリがついたらご飯にしよっか」


「はい、カナデ様! っと言うわけでして、今から休憩に入らせていただきますが、貴方の為にお時間を取ることは出来ません、お引き取りください」


 ティアは一礼後、靴を脱ぎふすまから一段高くなっている、茶の間に足を踏み入れる。


 その後襖を閉めたティアは向かいに座り、両手を合わせ「頂きます」っと俺が教えた食品への感謝をのべた。


 さぁ食べようか! そう思った時だ──なんと閉じられた襖が、勢いよく開けられたのだ!?


「──って貴様! さっきから、この方の接客中に何をやってるんだ!!」


 なんだ……冒険者か?

 まったくティアめ、御客さん居るのにこっちに来るなよな。


「ティア、まだ何か言ってるけど?」


「──ティアさんの事じゃない!! 貴様だ貴様! ティアさんの後ろでさっきからチョロチョロチョロチョロと、何をやってるんだ、っと言ってるんだよ!?」


 えぇ~貴様って、もしかして俺か? めんどくさい……。


「露骨にめんどくさそうな顔をするな!?」


 お、ばれた。

 ところでなんでこいつ、人の顔色伺えるのに、可能性の欠片もないティアへのアプローチを続けてんだ?


「何って、料理だよ料理。見て分からなかったか? 言っとくけどお前の分はないからな」


「──いらんわ!」


 すこぶる機嫌が悪いな……さっきから何を怒ってんだよ。


「だ~か~ら!! 俺様はなんで、ギルドの受付の中で料理してるか聞いてるんだ」


 あ、なるほど。

 コイツ、そんな些細なことが気になるタイプなのか。

 更にめんどくさい……。


「ティア、だから言っただろ? 調理場に外への出入り口があるからって、そこをギルドの受け付けにするのは無理があるって……」


「仕方がないですよ。カナデ様が一番長いこと居る生活空間、そこが調理場なんですから。むしろ少しでも長く一緒にいたい……そんな私の乙女心を、少しは理解してくださいよ!」


 って俺、調理場に居るのが一番長かったのかよ!?

 それに乙女心っ言われてもな……。


「理解って……どのみち一緒に住んでるだろ。ここでの時間にこだわることは無いんじゃないか?」


「……おい貴様、今なんていった?」


「ん?」


「今、一緒に住んでるとか「──!! 少しでも一緒にいたいのです! カナデ様がもし、間違いの一つや二つ起こしてくれれば、少しは我慢できるんですけど……」


 しかし悲しいかな……大声で叫ぶ客を完全に無視して、ティアは顔を赤く染めながらも、潤んだ瞳で俺をじっと見つめるのだ。


 それにしても間違って……自分で言うのもなんだけど、俺のヘタレっぷりをなめるなよ?


「決闘だ……」


「ん? 今なんか言ったか?」


 何て言うか、この冒険者顔が真っ赤だ……あれ、もしかして怒ってないか?


 どうやら、その見立ては間違っていなかったらしい。


「──決闘だって言ったんだ!! 俺と勝負しろ!!」っと、冒険者は大声を上げ宣戦布告してきたのだった。

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