第312話 開拓の進展

「んんっ~~あぁ!!……随分走ったな。もうそろそろ、開拓村が見えてくるんじゃないか?」


 それにしても同じ格好で手綱を握り続けるって、こんなにも疲れるものなんだな。

 ハーモニーはずっとこれを続けて……今更ながら、何度感謝しても足りないな。


「カナデさんお疲れですね……僕も馬車を引ければ良かったのですが」


「気にすること無いよ。シバ君には色々と助けられているし、お陰で帰り道も一度も魔物と遭遇しなかった」


 精霊の森を出てしばらく経ち、俺達は開拓村へと向かっている。

 それも何日か経ち、行きにかかった時間を考えれば、そろそろ見えてきてもいいころだけど……。


「カナデさん、村が見えてきましたよ!」


「あぁ、俺にも見えたよ」


 遠目に、作りかけだが出発時には無かった建物が一件見える。

 俺達が居ない間、皆も随分頑張ってくれていたみたいだ。


 ふと山を見ると、ふもとまで緑が移り変わっている。


「ドリアードさんも、無事着いてきているみたいだな」


 村の皆も驚くだろうな? まさか大精霊を連れて帰るとは、誰も思わないだろう。


◇ ◇ ◇ ◇


「──ただいま皆! 今帰ったよ」


 近くで見ると新しい建物、思ったより大きいな。

 デザインも、木造和風建築に寄せてあるのか……まるで旅館みたいだ。

 足場の上からは、大勢がこちらを見て手を振っている。


「凄いな。いつの間にかこんな立派な建物の着手を行っていたのか」


 未完成ながら、外観の面構えは随分立派だ。

 予想通り、宿泊施設なのだろうか? 完成しては居ないけど、入り口の看板に【宿】って書いてある。

 完成してないのに看板出てるって、きっとテンション上がって先走ったな?


「──お帰り、カナデくん。彼らの仕事はどんなもんだい? 驚いただろう。どうも流石に、テントばかりというのも気が滅入るらしくてね。今はいくらか完成した部屋の一部を交代で使いまわしているんだ。あれは開拓が落ち着いたら、冒険者の宿にでもするようだよ」


 今日も腹筋がまぶしいソインさんだ。


 なるほど、それで最初に宿泊施設を。

 確かに長い開拓生活、夜営続きじゃ体も持たないしな。


「ただいま戻りました。村の護衛、ありがとうございます。首尾はどうでした?」


「うん。柵もあったおかげで、中にまで魔物の侵入を許すことは無かったさ。君の方は……ふふ。その様子なら、目的は達成できたみたいだね」


「えぇ、無事に浄化石を手にいれてきましたよ。後、新しい住人も共に」


 念話で呼び掛けると、馬車の後ろからドリアードさんが顔を出す。

 どうやら彼女、単独なら木や木材を介して短距離の移動が出来るらしい。


『初めまして、大精霊ドリアードと申します』


「『初めまして』っと彼女は言われてますね」


「あ、ああ。初めまして、私はリベラティオ王国で騎士団長をしているソインと言う者だ。……しかしカナデくん、君にはよく驚かされるな。この方は大精霊様だろう?」


「はい、そうですよ。名前はドリアードさんです。気に入った森に適当に住み着いて貰っていいので、後でまた挨拶にいきますね」


 ドリアードさんは微笑み、頭を下げる。

 そして来るときと同じように、馬車の木製部品の中に潜っていった。

 いったい、どんな原理なんだ?


「実はね、カナデくん。こちらにも新しい住人と物資が届いたのさ」


「あぁ、ティアが伝鳥で言ってた」


 そうか、見知らぬ顔がチラホラ見えるとは思ってたが、さっそく……。

 頑張って働いてくれているようだし、また後で挨拶させてもらおうか。


「──おかえりなさい、カナデさん。随分早かったのね?」


 呼び掛けられ振り向くと、白いエプロンを身に付けた女性がトコトコと近づいてきた。


「あぁ~ナナさん、ただ今帰りました。浄化石は入手できましたよ。数があるので、後で俺から職人の方に渡しておきますね」


「ありがとうございます。カナデさんのお陰で村が綺麗に保てそう」


 それは良かった、疫病とか流行した日には目も当てれないしな?


「あの。ところでソイン様、カナデさんにあの事は……」


 あの事? 言い回し的にも、何か秘密でもあるのだろうか。


「ん? あぁ、その件に関してはまだ何も話していない」


「そうですか──じゃぁ此方に来て下さい!」


「ちょ、ちょっと──!?」


 ナナさんは突然俺の手を握ると、そのまま俺を引っ張り、村の中央へと走っていった……。


◇ ◇


「こ……これは!?」


 村の中にある唯一の池、その隣に立てられている、崩れそうな古びた建物が本来在るべきなのだが──。


「──家が……綺麗になってる!?」


 木造の柱も土壁も、折れたり欠けたりしているところは何処にもない。

 所々崩れていた屋根も、見事な藁葺わらぶきで再現されていた。


「あの……許可も取らずに、勝手に直してごめんなさい。ルームさんからこの建物の経緯を聞いて、居ても立ってもいられずに……」


 え、彼女は何を謝っているのだろうか?


「──みんながね、君への礼をどうしても用意したいと躍起になったんだ。どうか、怒らないでやってくれ」


「ソインさん……怒るなんてとんでもない、ありがとう! 皆にも後でお礼を言わないと」


 目の前の二人は、お互いに向き合って笑顔で見つめ合う。

 そしてナナさんが急に──


「あのですね、村長。早く中も見てください、絶対に驚きますから!!」っと、俺の背中を押し始めた。


「ちょ、ちょっと押すなって!? 見る、見るから……」


 進められるがままに、入り口の扉を引く。

 するそこには──どこか見覚えのある女性の後ろ姿が見えた……。


 扉を開けた音に気付いたのだろう、その女性がこちらに振り向く──。


「ティ……ティアがどうしてここに!?」

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