第310話 レクスバジリスクの最期

 灯心の一閃により、千切れたレクスバジリスクの頭が宙を舞う。


 体は頭を失ってもなお、木に捕まったまま、のたうち回るよう動き続けている。


「──まだだ!!」


 俺はマジックバックから、一枚の布生地を左手に取り、満身創痍まんしんそういのレクスバジリスクへ向け、走り出す──そして、地面へと落ちようとしていた頭に、布切れを被せ、その勢いのまま木の幹に押し付けた!

 

 手に持つ布が、固いものに触れている感覚へと変わる──頭をはねて終わりと思い込んでいたら、今頃は俺が石像に……。


「失敗は何度も経験してきた……だからもう、最後まで油断はしてやらない」

 

 無銘を持つ手に力が入る、そして押さえ付けた頭に切っ先を向けた──。


「ごめん、悪く思わないでくれ!!」


 突き出した刃は、石に姿を変え始めた布生地を軽々と貫通し、その下に居る奴の頭を串刺しにした……。


 鳴き声も悲鳴も無い。

 あるのは振りほどこうとする、必死な抵抗のみ。 

 俺は動かなくなるまで、何度も何度も無銘を突き立てた。


「……なんて生命力なんだよ」

 

 抵抗を見せなくなったのは、四ヶ所程穴を開けた後だった。

 仕方ないとはいえ、胸くそ悪い……。


『カナデ……倒したのカナ?』


「あぁ、多分な。後はこっちか……」


 立ち上がり、未だすぐ近くの木に巻き付いている胴体を見つめる。

 頭が絶命したって言うのに、未だウネウネと動いている、まるで苦しんでいるかのように。


「今、楽にしてやる……」


 長い胴体を、次々と斬っていく。

 その度に血は流れ、血飛沫は舞い、レクスバジリスクの体は、いつしか完全に活動を止めていた。


「終わった……よな?」


 胸焼けがしそうだ……。


 例え敵とは言え、あんな苦しませるような最期を送らせたくはなかった。


 その場で刃を振るい、ほぐしてある拭い紙で拭きとる。

 深く息を吸い、ゆっくりと吐く……跳ね上がる鼓動を落ち着けながら、無銘をゆっくりと鞘へと納めた。

 

「ふぅ~……」


 鑑定眼で確認しても、間違いなく死んでいる──そうだ、石化は! 石化はどうなって!?


 石へと姿を変えた無機質な風景が、徐々に元の色鮮やかな緑色に変わっていく。


「良かった……解けたみたいだ」


 ドリアードさんも、元に戻っただろうか?

 振り向くと、石化が戻りその場に崩れ落ちる。


「ドリアードさん、大丈夫ですか!?」


 慌てて側に向かうものの、目が開かない……? 

 石像になってしばらく立ったし、彼女が無事な保証は何処にも無いじゃないか!?


「ドリアードさん、ドリアードさん!」


 どうしよう、こんな時人間なら心肺蘇生法でいいかもしれないけど、そもそも大精霊が俺達と同じように心臓があり、呼吸している保証が無いじゃないか!


 俺が取り乱していると、ドリアードさんが目を開ける──。


「良かった……無事だったんですね?」


『貴方は……』


 目が合ったものの、彼女は今の状況が飲み込めていないのか?

 大きな瞳をパチクリとさせ、頭の中を整理しているようだ……しかし次の瞬間──


『魔石! 魔石は無事でしょうか!?』


 ──っと自らのことそっちのけで、水球の中にあったはずの魔石の存在を心配し始めたのだ。


 しかし石になっていた水球を見ると、ただの水溜まりになっており、五つの浄化石しかそこには残っていなかった。


「失くなってる……?」


 砕けてしまったのか? いや、でも欠片の一つもない……。

 その後どれだけ探しも、見つけ出すことは出来なかった。

 

 横目でドリアードさんの顔を覗くと、その表情はとても曇っている。

 そして、彼女の口から予想だにもしない念話が漏れた──。


『不甲斐ないです、にしてやられました……』っと。

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