第309話 三つ目の心

「い、石にはなっていない。助かったよミコ……後コンマ数秒でも遅れてたら、間に合ってなかった」


 俺を除き、その周囲はレクスバジリスクの魔眼の力により、固く冷たい石へと姿を変えていた。


 奴は、何があったか分からないと言う表情で警戒を見せているようだ。


『カナデ、動きが早すぎるカナ……今のはかなりギリギリだったし』


「仕方がないだろ? あのままだったら俺も石像になってたんだ……」


 レクスバジリスクは、開いた一つ目をゆっくりと閉じる。

 様子からすると、それでも俺の居場所が分かっている……ピット気管を持っているだけのことはあるな。


「でもまぁ、ひとまず賭けには勝ったようだ。ティアの言う通り、奴の石化は瞳にものしか効果が無い」


残心ざんしん】【灯心とうしん】に続く、三つ目の心──【無心むしん】。


 今まで何度かミコに使ってもらった、姿を消す魔法インビシブルを、複雑に動く戦闘にそのまま応用した新技だ。


『でも、今のは本当にギリギリだったカナ。あれだけ早く動かれると、流石に隠蔽いんぺいが追い付かないシ!』


 完成していないこの技は、現在行動規制がかかる。

 つまり、全力の半分も速度が出せないのだ……。


 しかし、制限があるのは相手も同じようだ。

 わざわざ相手を石に出きる魔眼を閉じたところを見ると、制約があるに違いない。

 察するに、目を開けれる時間に制限があるんじゃないか?


 感覚は分からないが、さっきの攻撃を踏まえ、石化が使える時間は、目を開いてからの3秒程と見ていいだろう。

 範囲は、前方視野で扇状に約45度、射程距離は8メートルと言った所か……。


「ミコ、後どれぐらい持ちそうだ!」


『分からないカナ!』


 無心がいつまで続くか分からない……早々に距離を詰めたいが、それが出来ないのがもどかしい。


「って、あの図体で器用な!?」


 レクスバジリスクは俺から距離を取り、石となった木に巻き付く。

 そして木の間を渡るように、この空間全体を使い移動を始めた 。


「あれじゃ、簡単に手が届かないじゃないか!」


 それに動き回られると不味い、近くには石になったドリアードさんも居る……。

 俺は彼女を守るため、奴の動きに合わせ常に立ち塞がるよう立ち回る。


「──来る!?」


 レクスバジリスクは体をしならせながら、牙を向け、噛みつく素振りを見せた。

 俺は無銘を構え、追撃の抜刀を試みるも、奴は体を縮ませ途中で攻撃を止めて来たのだ……。


 それを繰り返す、何度も……何度も。

 レクスバジリスクの動きは、まるで俺を疲弊させようとしているかのようだ。


 あの目のインターバルは約8秒……視覚でも俺を視認しようと、必ず定期的に目を開け確認している。

 このままじゃ、無心の使いすぎで魔力が切れるぞ。


「──何とかしないと!?」

 

 そんな俺の思惑を知ってか知らずか、レクスバジリスクは繰り返し体を伸縮させ、次々に牽制を行う。


 くっ、大丈夫落ち着け……あいつの行動パターンは読めた──。


 こうなったらミコ、一か八かだ!

 次奴が目を閉じたら、無心を止めてくれ!!


「無茶カナ!? もし、あの目がいつでも開けれたら……」


「大丈夫だ──俺を信じろ!!」


 防戦一方じゃ、いつかは負けてしまう。

 俺にはまだまだ、やるべきことが山ほど残ってるんだ、こんな所で死ぬ気など、さらさら無い!!


 レクスバジリスクが目を閉じた瞬間、俺は無心を解き姿を表した。


「熱を関知する気管なら、これだけの熱量が急に現れたらどう見えるだろうな?」


 奴のピット気管は、俺の力動眼とは違う。

 対象を指定できる俺に対し、ピット気管は温度を範囲でとらえているはず。


 鞘から引き抜かれた無銘が、持ち手さえ熱く感じるほどの熱を放つ。


 言うまでもなく、自然界には存在しない熱量を放つわけだ、きっとその第二の目は、俺の周辺全てが真っ赤に見えるだろ?


 現に目の前の白蛇は、挙動不審な様子で逃げようと心みているようだ。


「逃がさない──灯心とうしん直刃すぐは!!」


 無銘を振るうと、目も開けれぬ程の眩い閃光がレクスバジリスクへと伸びていく──その一撃は、奴がよじ登っていた木もろとも、頭と体を分断したのだった……。

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