第306話 精霊の森3

 目の前の存在は不思議……っとしか言い表せなかった。


 宙に浮く水の塊、その中には黒い拳ほどの宝石が一つと、ボコボコと穴の空いている隕石みたいな石が、五つ程入っているように見える。


「もしかして、あの中にあるのが浄化石か? シバ君なら何か分かるかな」


「言われてみたら僕も外見を知りません!! カナデさんどうしましょう!?」


 ──って二人揃って知らなかったのかよ!


 そう言えば希少品だって言ってたもんな?

 鑑定眼を使えば確認は出来るか……目の前の石であってくれ、じゃないと片っ端から鑑定しないといけなくなる!!


かん……」


『──お待ちしておりました、勇者様』


 言葉を遮るかのように、先程の念話が聞こえた。

 それと同じくして、一本の木の幹が膨らみ、謎の凹凸が現れる。


「──シバ君俺の後ろに!?」


 指示と共に、いつでも無銘を抜けるよう、咄嗟とっさに抜刀の構えを取った。

 

 幹から飛び出て来たものは、徐々に人の形を成すよう、姿を変えていく……。


「アルラウネ……なのか?」


 昔みた、アルラウネとは少し違う?

 あの時の魔物は、美しい容姿をしていたが、上半身が裸でも羞恥心はなく、人形のように無表情だった。


 しかし目の前の彼女は、緑色の目と髪を持ち、溜め息が出る程美しい。

 そして、所々に花を散りばめた白いドレスを着ている。

 何よりその目は、慈愛のこもった目をしている気がした。


『大変ご無沙汰しております。あら、前と少し、印象が違うような……?』


 ……敵ではなだそうだ。

 印象が違うとは、きっとじいちゃんの事を言っているのだろう。


 俺は無銘から手を離し、彼女の疑問に答えることにした。


「自分は勇者ではないです……名前はカナデと言います。やっぱり、貴女はじいちゃんを知ってるんですね?」


 俺の口にした「じいちゃん」の言葉を聞き、本人で無いことを理解したのだろう、彼女は少しだけガッカリした顔を見せた。


『そう、あの時の勇者の子孫ですか……通りで。私の名は大精霊ドリアード、貴方の祖父の友人……っとでも言った所でしょうか?』


 ん、今何か……。


「──カナデさん……その方とお話をしてるのですか?」


 あぁそうか、彼女が終始念話で話してるため、シバ君にはその声が届いていないみたいだな。

 つまり、俺の独り言に聞こえると……。


「あぁ、大精霊のドリアードさんだよ」


「だ、大精霊様!?」


 驚きの声を上げ、その場に尻餅をつくシバ君。

 その反応に『ボクの時は何にも無かったカナ』っと、ミコがぶつぶつ文句を言っているので、彼には是非平然として欲しい。

 

『──ところで本日は、あの方の孫さんがどの様な用件でここに参られたのでしょうか?』 


「えっとですね。この森に浄化石があると聞いて、それを探しに来まして……」


 返答する言葉を探すかかのように、考え事込むような仕草を見せるドリアードさん。

 その姿は、ドレスの足元から見せる木の根以外、普通の人間と遜色そんしょくは無かった。


『はい、浄化石は間違いなくここにあります。あそこにある水球すいきゅう、その中にいくつかある石が貴方の求める物です』


 水球とは、あの浮いている水の塊だろう。

 いくつかって事は、あのボコボコした方の石が浄化石……。


『しかし今は、それをお渡しすることは出来ないのです』


「……理由を聞いてもいいですか?」


 彼女は水球に向かい歩きだし、俺達もその後を行いていく。


『この中にある魔石、そこからは悪し魔力が溢れだしています。その為、現在はこの様な形で封印し、漏れだす魔力を水に溶かし、浄化石で浄化し、世界に還元しているのです』


 確かによく見ると、宝石のような魔石から黒い何かが出てるな?

 その黒いモヤを、浄化石が吸い込んでいるようにも見えるけど……。


「つまり、浄化石を持って行かれるとその浄化が間に合わないって事ですか?」


『はい』っと、ドリアードさんは頷いて見せる。

 

『これは、貴方の祖父からの預かり物です。実のところ、勇者の振るう聖剣ですらこの魔石を斬るには至らなかったのです』


 なるほど。

 じいちゃんは壊せなかったから、その得たいの知れない魔石は封印と言う形に収まったのか……それなら考えるまでもないか。


「シバ君、帰ろうか?」


「良いんですか!? 雰囲気的に、あの中に浄化石があるんですよね?」


 あの魔石は、じいちゃんが手に終えない程の代物……それなら、きっそのままの方が良いだろう。


「あれは持って行けないみたい、理由は帰りながらにでも説明するよ」


 それに、あの黒曜石のような輝きを見せる魔石……見つめるだけで胸がざわつく。

 これは感だが、安易に関わらない方が気がする。


「それではドリアードさん。俺達は別の方法を探すことにします、これで失礼しますね?」


『そうですか、帰り道に印を着けておきました、気を付けてお帰りください』


 無駄骨……だったな。

 じいちゃんの友人に会えた、今回のところはそれで良かったとしようか。

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