第305話 精霊の森2

 浄化石を探すため、謎の念話を頼りに俺達は森の奥へと足を運んだ。

 

 道中は自然界の森とは思えないほどに歩きやすく、まるで奥へと招き入れられている気がした。


「なぁシバ君。なんか、その辺りに色んな光が浮いてるけど……」


 何かの罠……っとかじゃないよな?

 触れたり吸ったりで病いに犯されるとか……。


「あの光はきっと小精霊様ですね。余程この辺りの魔力が濃いのでしょう、こんなにも沢山居るなんて……」


 これが小精霊? ミコとは随分違うんだな。


 例えは良くないかもしれないが、まるで昼間にも輝く色とりどりの蛍のようだ。

 幻想的で何処かはかない……そんな印象を受けた。


「これが夜だったら、もっと綺麗なんだろうな」


 木々のカーテンが太陽の光を遮り、辺りはうっすらと陰っている森の中とは言え、昼間でもこんな綺麗に見えるんだ。


 これだけ輝いているなら、きっと夜には歩くのに明かりさえ必要ないだろう。


「ところでシバ君、レクスバジリスクの臭いはどうなんだ?」


「大丈夫ですよ、かなり遠くなはずです。ほとんど臭いを感じませんので」


 そちらはひとまず安心か。

 このまま行けば、取り越し苦労で済みそうだ。


『カナデカナデ、上カナ。伝鳥来てるシ』


 上を見上げると、伝鳥が木の枝に止まって──本当だ、もうティアからの返事が来てる……。


 俺は地面を指差すと、伝鳥は姿を変え早速文面が開かれる。──なになに?


「これはまた、非常に厄介だな……」


 これは、想像してたより悪い情報だ。


『王族種の情報はありませんが、バジリスク系統は個体数は少なく、出会うことは稀であり、蛇に近い性質を有しています。目は普段は閉じられているものの、ピット器官と呼ばれる熱感知器官を持ち、相手の居場所を特定する事が可能です』


 まいったな……つまり一度出会ってしまったら、隠れてやり過ごすのは不可能ってことか?


『牙には非常に強い毒を持ち、その一撃が致命傷になりえます。そして何より危険なのは、開かれた魔眼に姿が写されると、徐々に被写体は石化し、身動きが取れなくなってしまう事です』


 石化は想像してたけど、毒まで持ってるのかよ!?

 蛇と近いのであれば、あの体も筋肉の塊ってことか? 巻き付かれるのも危険だな……。


『……カナデ様。私は、その場を立ち去ることを奨めします』っか──。


「ティアに、心配掛けちゃったみたいだな」


 心配しなくても、戦う気は無いって連絡しておくべきだろうか?

 まぁ浄化石を回収後に、無事遭遇しないで済みました……でもいいか。


 そんな事を考えていると、脳内に念話が響く。


『──勇者様、こちらです、こちらです……』っと。


「またあの声だ……」


「カナデさん? 先程も言ってましたけど、声……ですか?」


 そうか、シバ君にあの念話は聞こえていないのか。


「あぁ、さっきから誰かが、念話で俺に語りかけてきてるんだ……」


 明らかにミコとは違う、落ち着きのある大人の女性の声……。


『僕も落ち着きあるカナ!!』


 …………先程よりもハッキリと念話が聞こえたな、声の主に近づいている証拠だろう。


『無視するなカナ!?』


「あー……この道であってるみたいだ。シバ君、先を急ごう」


 ミコからの苦情を受けつつも、先へ先へと足を運ぶ。


 程なくすると視界が開け、明らかに何者かの手によって作られた、不思議な空間へと足を踏み入れた。


 上を見上げると、何本もの枝が器用にも折り重なり、葉と枝がアーチを作っている。

 見事なまでの、緑色のドームが紡ぎ出されていたのだ。


 そして一番の驚きは、物理法則に反する目の前の現象──。


「水の塊が──空に浮かんでいる!?」


 言葉の通り、俺の目の前には成人男性程の巨大な水の球体が、宙にふわふわと浮かんでいたのだった。

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