第304話 精霊の森
「それじゃーオスコーン、メスコーン、留守番頼んだぞ? ハーネスは外しておくから、何かあったら逃げるんだぞ?」
精霊の森から少し離れた藪の中に馬車を隠す。
今回は流石に中まで一緒は不味いからな?
なるべく隠密に動きたい。
「『分かった、お前こそうまい事、無事に帰ってこいよ?』って言ってるカナ」
オスコーン、俺の心配とかこいつ……。
彼女が出来て、人が出来……いや、馬が出来てきたんじゃないか?
──って、なんでこんなところで少しだけ敗北感を味わってんだよ、俺。
二頭が居るその場を後にし、俺達は目的の森へと足を踏み入れた──。
◇
「──ここが精霊の森か」
なんか少し違和感が……何て言うか、綺麗すぎる。
普通の森はもう少し大小バラバラな木々が、まばらに植わっているのに対して、大きさも間隔も比較的綺麗に揃っているような。
まるで誰かが、手をいれて……。
まぁ、それはいいか? それより──。
「どうかな、シバ君。アイツの臭いは分かるか?」
「なんとか……大丈夫です。偶然にもさっきの魔物、悪臭が強いので近づけば分かると思います!」
この子、王族種を遠回しに臭いって言っちゃったよ……。
それにしてもすごい嗅覚だ、俺には草木の臭いしかしないんだけどな。
「シバ君、もしヤツと遭遇したら真っ先に逃げるんだぞ、いいな?」
「カナデさんは……」
「大丈夫だよ、いざというときは俺が退治するから」
っとは言ったものの、なるべく戦いたくはないな。
それに戦うことになったら、本当に奴に勝てるのだろうか?
事前情報がないと、こんなにも不安になるなんて……。
こんな時、ティアが居ればな? 彼女のありがたみを、改めて痛感したよ。
「そうだミコ……一応レクスバジリスクの事をティアへ連絡と、何かあるといけないから、そのあと無銘の中に居てくれ」
「分かったかな!!」
返事をすると、ミコが作り出した光輝く伝鳥が羽ばたいた。
木の隙間を抜け、瞬く間に消えていく姿を見送ると、ミコは大人しく無銘の中へと収まって行く。
うーん、この世界でも参考になるかは分からないけど、バジリスクって確か、地球の伝承では見たものを石化する生き物だったよな?
対峙する事が無いとは言い切れない。
流石に何か対策を練っておいた方がいいか……。
なぁミコ、相談があるんだけど。もしかしたら、例のアレを使うかもしれない。
『アレ……カナ? まだ未完成だシ……』
そこは上手くやるよ、大丈夫。ただの保険だから
残心、灯心に続く第三の技……使わずに済めば良いんだが。
「カナデさん、先に進まないのですか?」
「あぁゴメン、考え事をしてたよ。それにしても、どうしたものか?」
さて、このだだっ広い森の何処に浄化石があるんだ?
普通の森よりは見通しもいいけど、逆に言えば敵からも見つけやすいよな? あまり長居はしたくないけど……。
『──勇者……こち…ら……』
「ん、今誰か話したか?」
「いえ? 僕は何も」
『ボクもしらないカナ』
おかしいな? 確かに人の声が聞こえたような気が……。
『勇者様──こちらです』
いや間違いない、俺を勇者と勘違いしているが……念話で語りかけているみたいだ。
森の奥から聞こえてきてるな、でも返事がないことを察するに、こちらの声は向こうには届いていないのだろう。
対象者と接触なしでも出来る一方通行の念話……。
どちらにしても、他に手掛かりはないか。
「多分こっちだ。行こうシバ君!」
俺は念話のする方へと歩きだした……。
もしかしたら、俺を呼んでいるのはじいちゃんを知っている誰かかもしれない……ふと、そう感じたのだった──。
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