第304話 精霊の森

「それじゃーオスコーン、メスコーン、留守番頼んだぞ? ハーネスは外しておくから、何かあったら逃げるんだぞ?」


 精霊の森から少し離れた藪の中に馬車を隠す。

 今回は流石に中まで一緒は不味いからな?

 なるべく隠密に動きたい。


「『分かった、お前こそい事、無事に帰ってこいよ?』って言ってるカナ」


 オスコーン、俺の心配とかこいつ……。


 彼女が出来て、人が出来……いや、馬が出来てきたんじゃないか?

 ──って、なんでこんなところで少しだけ敗北感を味わってんだよ、俺。


 二頭が居るその場を後にし、俺達は目的の森へと足を踏み入れた──。



「──ここが精霊の森か」


 なんか少し違和感が……何て言うか、綺麗すぎる。


 普通の森はもう少し大小バラバラな木々が、まばらに植わっているのに対して、大きさも間隔も比較的綺麗に揃っているような。

 まるで誰かが、手をいれて……。


 まぁ、それはいいか? それより──。


「どうかな、シバ君。アイツの臭いは分かるか?」


「なんとか……大丈夫です。偶然にもさっきの魔物、悪臭が強いので近づけば分かると思います!」


 この子、王族種を遠回しに臭いって言っちゃったよ……。

 それにしてもすごい嗅覚だ、俺には草木の臭いしかしないんだけどな。


「シバ君、もしヤツと遭遇したら真っ先に逃げるんだぞ、いいな?」


「カナデさんは……」


「大丈夫だよ、いざというときは俺が退治するから」


 っとは言ったものの、なるべく戦いたくはないな。

 それに戦うことになったら、本当に奴に勝てるのだろうか?


 事前情報がないと、こんなにも不安になるなんて……。

 こんな時、ティアが居ればな? 彼女のありがたみを、改めて痛感したよ。


「そうだミコ……一応レクスバジリスクの事をティアへ連絡と、何かあるといけないから、そのあと無銘の中に居てくれ」


「分かったかな!!」


 返事をすると、ミコが作り出した光輝く伝鳥が羽ばたいた。

 木の隙間を抜け、瞬く間に消えていく姿を見送ると、ミコは大人しく無銘の中へと収まって行く。


 うーん、この世界でも参考になるかは分からないけど、バジリスクって確か、地球の伝承では見たものを石化する生き物だったよな?

 

 対峙する事が無いとは言い切れない。

 流石に何か対策を練っておいた方がいいか……。

 

 なぁミコ、相談があるんだけど。もしかしたら、例のアレを使うかもしれない。


『アレ……カナ? まだ未完成だシ……』


 そこは上手くやるよ、大丈夫。ただの保険だから


 残心、灯心に続く第三の技……使わずに済めば良いんだが。


「カナデさん、先に進まないのですか?」


「あぁゴメン、考え事をしてたよ。それにしても、どうしたものか?」


 さて、このだだっ広い森の何処に浄化石があるんだ?

 普通の森よりは見通しもいいけど、逆に言えば敵からも見つけやすいよな? あまり長居はしたくないけど……。

 

『──勇者……こち…ら……』


「ん、今誰か話したか?」


「いえ? 僕は何も」


『ボクもしらないカナ』


 おかしいな? 確かに人の声が聞こえたような気が……。


『勇者様──こちらです』


 いや間違いない、俺を勇者と勘違いしているが……念話で語りかけているみたいだ。


 森の奥から聞こえてきてるな、でも返事がないことを察するに、こちらの声は向こうには届いていないのだろう。


 対象者と接触なしでも出来る一方通行の念話……。

 どちらにしても、他に手掛かりはないか。


「多分こっちだ。行こうシバ君!」


 俺は念話のする方へと歩きだした……。


 もしかしたら、俺を呼んでいるのはじいちゃんを知っている誰かかもしれない……ふと、そう感じたのだった──。

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