第303話 有能シバ君

「──それではソインさん、皆をよろしくお願いします」


 三度みたびのティアからの伝鳥には、ライオネルからの許可を取ったとの報告が記載されていた。


「あぁ、こちらは任せてくれ。君たちも注意を怠らないように」


 向かうメンバーは俺とシバ君。

 村に護衛が誰もいないわけにはいかないからな?

 それに、開拓を遅らせる訳にもいかない。


 べ、別にルームには、断られた……とかじゃないんだからね!?


「おほん! じゃぁシバ君、案内頼むよ」


「はい、任せてください!」


 俺は手綱を打ち、ユニコーン達を走らせた。

 ルートは山越えではなく、あえてそれを迂回してして行く。

 ユニコーン達の足なら、かえってその方が早いのでは? っと言う、シバ君の案だ。


「考えてみれば、この世界に来て、こうして男だけで旅するのは初めてだな……」


 独り言のように粒やくと、それを聞いたのだろう、ミコが俺の前に飛び出してきた。


「二人じゃないかな!? 三人だし!!」


「あぁ、そうだったな。すまない、頼りになる相棒を忘れてたよ」


「カナデには困ったもんカナ!」っと腰に腕を当てるミコ。

 

 確かにミコが居たら、一食が五人前だ……二人なんてとんでもない──なんて思ったことは本人には秘密にしておこう。



「驚いたな……ここに来るまでまったく魔物と遭遇しないなんて。こんな平和な旅路、今まで無かったぞ?」

 

 左手に見える山の紅葉を楽しみながらも、川を越え、割れた大地の谷を越え、山下の美しい湖を迂回し、数日間かけ、とうとう目的地周辺へと差し掛かった。

 

 今思えば、もう少し山側を走った方が距離が縮められたのでは? っとも思ったが、シバ君にも考えがあってこそだろう。


「はい、魔物と接触しないように意識してきましたからね?」


 そうかそうか、結局のところシバ君の案内が適切だった、って事だな。

 だから魔物と遭遇しないで済んで……。


「──今なんと!?」


 って事は、彼がこの状況を意図的に作ったって事か!

 それが本当だとしたら素晴らしいぞ!? なに? 実はシバ君有能なのか……。


「ヒューマンとワーウルフとのハーフである僕は、特別鼻が利きますからね」


 なるほど……じゃぁ何か? この子が居れば、無用な争いを減らせる訳か。


「大人数の移動や、今から行く森の中に入ると流石に香りが複雑で分かりませんが、数名程の移動でこれだけ開けてる場所でしたら逃げ隠れするぶんには造作もありません」


 その事を自慢気に話シバ君。

 何て言うか、目が誉めて誉めてと訴えかけてきてるようだ。


「あぁ、凄いな! これからも是非頼むよ!」


「はいカナデさん! 任せてください!?」


 空いてる手で頭を撫でると、嬉しそうに目を細めて見せる……。

 何だろう、こうも素直で汚れのないシバ君を目の前にすると、母性的な感情が芽生えてきて……今ならショタコンの気持ち、分かる気がして──って何を考えてるんだ、俺!?


「カナデさん、大丈夫ですか? 目的地、見えてきましたけど?」 


「だ、大丈夫! あそこが浄化石のある精霊の森なんだな?」


 目の前の森だけが紅葉しておらず、草木は青々と生い茂っていた。

 例えるならあそこの森だけ、生命力に溢れていかのように……。


「カナデさん……なにか嫌な臭いがします」


「嫌な臭い?」


 馬車を止め、シバ君が指差す方を追ってみた……すると、森の手前に何か居るように見える──。


「森の入り口に……何か居る?」


 遠いな、ワニか? トカゲ? いや、蛇にも見えるな? ハッキリ分からないぞ。

 でも、あまり近づくとこちらに気付かれるし──そうだ!


「鑑定!!」


 遠目に、目の前の存在の情報が浮かび上がる。


「やっぱ遠いか、でも名前だけなら何とか──レクス……バジリスクっておいおい!?」


 レクスって、確か王族種……。

 しかもバジリスクって、俺が居た世界の知識で言えば、確か見た相手を石にするって……。


「カナデさん? 顔色が良くないようですが……」


「シバ君の言う通り、入り口のアイツ……かなりヤバそうだ」


 いや、伝承通りならヤバイなんてもんじゃない……ここは一旦立て直した方が──。


「大丈夫です臭いを覚えたので。何とか森の中でも……それとも、僕が頼りなく感じるようでしたら、引き返しますか?」


 まったく……そんな捨てられた子犬みたいな目で見るなよ、断れるはずが無いだろ?


「いや、行こう! 折角ここまで来たんだ。頼りにしてるからな、シバ君!!」


「……はい!!」


 

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