第301話 ティアからの伝鳥

 開拓村の着工から数日後の早朝。


 俺達はいつものように、皆で朝食を取っていた。

 簡単ながら、防御柵は予定の通り出来上がり、現在はその外に堀を作っている。


 これが完成すれば、野犬のような魔物位なら余程のことがない限り、侵入を許すことはないだろう。


 今はまだ広くはないが、村の拡張時には水を張り水路にする予定だ。


 使い方次第じゃ飲料水にも出来るし、その水路を使い農業も……気候さえ良ければ、米なんかも自給自足出来るかもしれないな!?


「──カナデさん、今日はいつになくご機嫌ですね?」


 いつものように、俺に着いてくるシバ君。

 今じゃ、懐いてくれる弟分みたいなものだ。


「何言ってんだよ~別にいつも通りだろ?」


 俺はシバ君の肩に腕を回し、頭をグリグリとする。

 あの事が悟られないよう必死なのだ──。


「今朝、女から伝鳥がきたんや。だから、うつつを抜かしてるだけやで」


「ってルーム! 何をいって……」


 あの、シバ君? あまりキラキラした瞳で見るの止めません?


「その伝鳥って、お姫様からですか? それともエルフの子です?」


「ちょっと待て、シバ君が何でそんなことを知って……」


 さてはコイツだな?

 犯人の目星をつけた俺は、睨み付けるように見つめた。 

 しかし犯人は気にしたようすを見せず、マジックアイテム作りに没頭している。


 まぁいい。シバ君なら、からかってきたりは無いだろう。


「はぁ……違うよ。ギルド職員のティアから、連絡が来たんだよ」


「あ、あの麗しき観察者ですか!? 流石カナデさん、凄いです!!」


 彼からは、純粋に憧れの眼差しが向けられる。

 そう言えばティアは知る人ぞ知る有名人だったな? そう考えると、鼻が高……。


「──まぁ、つきおうては無いんやけどな?」


「おいぃぃ! 間違っちゃないけど、ワザワザ説明する事無いだろう!?」

 

 ルームのやつ、的確に痛いところをついてくるな。

 俺が大きな声を上げたものだから、流石の彼女も「言い過ぎたか?」みたいな顔をしている──


「と、所で兄さん、なんて連絡があったん?」


「話をそらしやがって……この村の噂を聞いて、混血ハーフの移住希望者が集まってるらしくてな? 近日リベラティオを出発するらしい、ついでに物資運搬もするけど、欲しいものはあるか? ってさ」


「それだけかいな?」


「……話せることは、それだけだな」


 そりゃーまぁ……話せない内容もあるにはある。

 寂しいだとか、次会ったときは何がしたいとか……そんな内容もあったけど、それを今話す義理はない。


「──あの、カナデさん。少し、お時間いいかな?」


 突然話しかけられ振り替えると、そこにはこの前の女性が立っていた。

 確か、彼女の名前はナナだったか?

 

「この村のことで、ご相談があって……」


「いいよ、それで相談って何かな?」


「私、これでも医療従事者なんだけど、実は衛生面の事で相談したくて」


「衛生面?」


 この世界にも、衛生面に関する知識は根付いているみたいだ。


 思い当たる節が無いわけでもない。

 開拓も開始して数日だが、三十人近くもの人がここには居るからな……。


「うん、汚水は深い穴を堀り放置してるのが現状だけど。ただ衛生的にも良くないですし、なるべく早めに対策した方が宜しいかと思って……」


 生き物が生活すれば、どうしても排泄物は出る。

 現状、彼女が言うように深い穴をほり、蓋をして管理を行っているのだが……。


「ん~他の村ではどうしてるんだ?」


 流石に下水施設は無いからな……微生物の働きでって聞いたこともあるけど、作るにしても流石に専門外だし。


「小さな村だと、肥料等にしていることもあるけど、動物や魔物に処理してもらうため、多くが村の外に捨てられてるかな?」


 確かに衛生的とはほど遠いな。

 今の様子だと、きっと移住者はもっと増える。

 あまり不衛生だと、疫病が流行る危険もあるか……。


「じゃぁ、大きな町では?」


「リベラティオでは、浄化石を使っていると聞いたことがありますが……」


「浄化石?」


 聞きなれない名前だ、異世界ならではのアイテムだろう。


「そう、浄化石。あれは水でも空気でも、ありとあらゆるけがれを浄化すると言われているけど、滅多に手に入らないの」


 希少な品か? リベラティオ王が便宜をはかるって言ってたし。

 ティアなら皆での冒険中も、王様連絡を取り合ってた。

 彼女経由で確認を取ってみるか……。


「分かった、それは俺の方で何とかしてみるよ。貴重な意見ありがとう」


「はい、検討をお願いします」


 ナナは深々と頭を下げると、その場を去っていった。

 

「流石に……トイレ後の事情までは考えてなかったな」


 普段当たり前の用に使ってる物でも、色んな人達の知識と、経験によって生み出され来てる事を再認識させられたよ。

 村を作る……少し甘く見てたかもな?


 両の頬を叩き、俺は立ち上がる──。


「さぁ、今日も頑張るか!」

 

 ──っと、自信を奮い立たせるように。

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