第296話 やるべき事

「どう言うことなんだ……なんでこんな所に母さんの名前が」


 それにここに刻まれている文字……間違いない、じいちゃんが刀に銘を切るときと文字の癖が同じだ。

 つまり、この墓標を作ったのは……。


「カナデさん大丈夫ですか? 落ち着いてください、何かおじいさんから聞かされては無かったんですか?」


「シバ君……。いや、じいちゃんからは両親は亡くなった、って事ぐらしか聞かされてなくて……」


 元々、口数が多い人でもなかった。

 実際こうして召喚されていなければ、本当の事を聞かれても信じもしなかったと思うけど──。


「ってことは、母さんもこの世界に居たって事になるよな?」


 死んだと聞かされていたのは、母さんだけじゃない……もしかして父さんもこの世界に!?

 じいちゃんと同時期にこの世界に居て、ここに残って居たのなら二百年は経っている……生きているわけはなか。

 でもそれなら、どうして名前が並んでないんだ?


「じいちゃん、母さん達の事は話したがらなかったから。本当……一体どうなってるんだよ」


 考えてみればおかしいと思ったんだ。

 墓参りにもろくに行かなかったし、それどころか何処に埋葬されたのかすら教えてくれなかった……。


 こんな時、当時の事を知っている人がいればな……。


「なぁ、ミコ。この名前に聞き覚えはないよな?」


「……ここにコレがあるのは見たことある気はするカナ。でもこの場所に居たのは生まれたての時だったから、あまり覚えて無いシ」


 ってことは、母さんはミコがここで生まれる前、もしくは理由があってミコが居ないときに埋葬されて……。


「まぁ……仕方がないか」


 元々生きているとは思っても無かった。

 だから、悲しいっと言う気持ちは分かない……。

 むしろ、亡き母さんに手を合わせる場所が分かっただけでも、良しとしようじゃないか。


「じゃぁ二人とも戻ろうか? サボった分、少しでも働かないとな」


「──なっ!? ほんまそれでいいんか?」


 本当に、心配ばかりかけてるな……。

 俺は心配させないよう、彼女に平然たる態度で話しかける──。


「あぁ、冷たいようだけどやるべき事も沢山あるし、ひとつひとつ片付けていくよ」


 明日からは忙しくなる。

 人の住めない二件の廃墟、それ以外に何もないところに、皆の希望を築き上げねばらなければならないのだから。


 秋晴れの空を見上げ、新たな故郷となる大地を一望した。


「そしていつか目的が全て片付いたら、その時に改めて、じいちゃん達の事を調べ直しても面白いかもな?」

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