第297話 なぜなにトレーニング

 少しだけ肌寒い、空気の澄んだ早朝の青空。

 息を切らし空を見上げると、そこには羊雲が群れをなす。


 紅葉した木の葉が、風に乗りヒラヒラと舞い降り、せせらぐ川へと飛び込む……。


「はぁはぁ、幸先の良い天気だな」


 早朝訓練を休憩中の俺は、ソインさんに指導され、林の向こうで走っているシバ君の姿を目で追っていた。


「──って……なんか増えてね?」


 木々の隙間からはシバ君の後に遅れ、ぞろぞろと10人ぐらいの男どもが列をなす。


 ソインさんの檄が飛び、男のどもは必死にその期待に答えている。


「筋肉だ! お前たちに足りないものは筋肉! 自身の筋肉は決して我が身を裏切らない‼︎ 筋肉を信じろ!」


 指導者の目の色はおかしいが、なんだか部活の朝練みたいだな。

 皆必死で頑張って……意識高い系男子かよ。


 辛そうな表情を浮かべるも、それでも足を止めることのない男達。

 彼らも、きっと守りたいものが出来て……。


「あんなの見せられたら──休んでいる場合じゃないな!!」


 俺は立ち上がり、ルームに作ってもらったマジックアイテムを地面に置き、それを使い稽古をすることにした。


「じゃぁ──いくぞ!」


 早速特訓を開始する。


 俺は──ドシン! っと音を立てその場に崩れ落ちる……そしてすかさず立ち上がり「もう一度!!」っとマジックアイテムの使用を何度も繰り返した。


 激しい特訓だ……何度も倒れ、何度も立ち上がる。──俺よ、心を強く持て! これしきの事で目を瞑るな! 


 激しい特訓が続き、同じことを何十も何百も同じことを繰り返した。

 そんな時だ、シバ君達の訓練を指導しているソインさんと、偶然目があったのだ──。

 

 彼女はシバ君達の特訓中にも関わらず、こちらに向かい歩き始めた。

 何か用なのだろうか?


 ソインさんが特訓中の俺の目の前まで来ると「ごほんっ!」っと咳払いをして──。


「あ〜、カナデくんおはよう。先ほどからずっと気になっていたのだが……君は一体なにをしているんだい?」


 っと質問をする。


「あ、おはようございます。見て分かりませんか? 特訓ですよ」 


 平然たる態度を保て……心を折るな!

 ここで俺が照れてしまったら、変な空気になってしまう。

 これは間違いなく特訓だ──自信を持て、俺!

 そんな具合で、自分を奮い立たせる。


「いやうん。分からないから聞いたんだけどね?」


 はい、そうだろうと思っていました。


 下半身を鍛え始めたのは、そもそも今の特訓で身に付ける歩法の効果を十分に発揮するためである。


「ちなみに、どう見えるでしょうか?」


「……そうだね。私の目には、ただソレに倒れ込んでいるようにしか見えないね」


 彼女は、ルームに作ってもらったマジックアイテムを指差した。


 ……さすがソインさんだ、良く見ている。

 なるべく誰にも触れらず、見なかったことにしてもらいたかった。

 

 だってこの特訓、恥ずかしくて心が折れてしまいそうなんだもの……。


「まぁ、実際に倒れ込んでいますから」


 そう、実の所この特訓はただ倒れているだけ……。

 ルームに作ってもらったマジックアイテムの正体は、ふっかふかのマットレス。


 俺は先程から立ったまま足を揃え、前後左右何度もそのマットレス倒れ込んでいたのだ。


「そうだろうね。それが一体どんな訓練になるのか、是非教えて欲しいんだよ」


 どうやら気になっていたのは彼女だけではないらしい。

 男達もいつしか足を止め、こちらを見ている。


「分かりました、それでは俺が何をしているか説明します」


 俺は声を大にして答える。

 このまま白い目で見られるわけには行かないからな──とくと聞くが良い!!


「実のところこの特訓の正体は──」

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